幹細胞移植とは?なにをするの?若返り効果や種類、問題点や治療の流れについて徹底解説!
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
幹細胞移植とは、組織幹細胞や多機能幹細胞を使った再生医療のことです。最新の医療として注目を浴びている再生医療ですが、謎も多く効果や種類を知っているという人は少ないでしょう。そこで今回は、幹細胞移植とはどんなものなのか、造血幹細胞移植とは何をするのか、若返り効果はあるのかなどをくわしく解説します。
幹細胞移植とは?
幹細胞とは、失われた細胞を生み出し補充する機能を持った細胞のこと。
決まった臓器や組織を作ることができる組織幹細胞と、どのような細胞でも作ることができる多機能幹細胞にわけることができます。
組織幹細胞は血を作るのであれば造血幹細胞、神経を作るのであれば神経幹細胞と特定されます。
多機能幹細胞は、ES細胞やiPS細胞などのことです。
こうした幹細胞を利用し、病気やケガを治したり、肌を若返らせたりと再生医療の研究が進んでいます。
一般的に、幹細胞移植とは、主に臨床で行われている造血幹細胞移植のことをいいます。
造血幹細胞とは?
血液は大きくわけると、血球と血漿の2種類の細胞があります。
血球とは、赤血球・白血球・血小板の3つ。血漿は血球以外の液体成分です。
血球は骨の中心部にある脊髄で作られています。
造血幹細胞は、赤血球や白血球、血小板などのさまざまな血液細胞を作ることができる細胞です。
造血幹細胞とは、どんな特徴があるのか見ていきましょう。
造血幹細胞は分化と自己複製ができる
造血幹細胞は、脊髄の中で細胞分裂し、赤血球・白血球・血小板になります。細胞が成長する過程を分化と呼んでいます。
また、造血幹細胞は細胞分裂の際に、自ら同じ細胞を増やす自己複製能力も兼ね備えているのです。
輸血との違いは?
造血幹細胞移植と同じく、体内に血液成分を入れる治療である輸血。
輸血は一時的に血液細胞を供給しますが、造血幹細胞移植は長期間血液細胞を供給します。
つまり、輸血では不足した血液をすぐに補うことが可能ですが、摂家級や白血球、血小板などの細胞が寿命を迎えたときには、また輸血が必要です。しかし、造血幹細胞移植は造血幹細胞が体内で血液細胞を作り続けるため、大きな治療効果をもたらしてくれるのです。
造血幹細胞移植とは?
造血幹細胞移植は、化学療法や免疫行政療法で治すことが困難であるといわれている、血液のがんや免疫不全症などの完治を目的とした治療です。
通常の治療よりも強い副作用や合併症を起こすこともあり、全員が受けられるものではなく、慎重に行われています。
造血幹細胞移植に使用する細胞
造血幹細胞移植に使用する細胞は、骨髄・末梢血・臍帯から摂取されます。
骨髄移植
骨髄の造血幹細胞を、腰にある腸骨から採取して移植する方法です。
ドナーは全身麻酔で採取し、骨髄液は患者さんの静脈に点滴で注入されます。
移植に必要な細胞数が1回で確保できるメリットはあるものの、全身麻酔や採取後の痛みなど、ドナーへの負担が大きいことが特徴です。
末梢血幹細胞移植
血液中にある造血幹細胞を採取して、移植する末梢血幹細胞移植。
造血幹細胞は、普段は血液中に流れません。そのため、白血球を増やすG-CSFという薬を、3~4日間連続で投与し、血液中に造血幹細胞が流れ出したところで、血液成分分離装置を使用して採取します。その後、患者さんへ移植されます。
ドナーへの負担は少ないですが、G-CSFを投与しても、1回で必要な細胞数を確保できない可能性があります。
臍帯血移植
造血幹細胞は、お母さんと赤ちゃんを結ぶ臍帯と骨盤の血液に豊富に含まれています。
臍帯血の提供に同意した妊婦さんがドナー。採取された臍帯血は、臍帯血バンクで保存し、移植が必要な患者さんが現れたときに提供されます。
ドナーへの負担が少なく、提供申請から入手までの期間が短いこともメリットです。
造血幹細胞移植前処置の種類
造血幹細胞移植を行う前に、移植前処置をする必要があります。
移植前処置は、腫瘍細胞を減らし、患者さんの免疫細胞を抑制する目的で行うものです。
骨髄破壊的移植
骨髄破壊的移植とは、フル移植とも呼ばれています。
大量の化学療法や全身の放射線治療のあとに、造血幹細胞を投与します。移植前処置が強力なため、副作用や合併症が起きやすいのが特徴。
目安として55歳以下で体力のある患者さんのみ適応とされます。
骨髄非破壊的移植
骨髄非破壊的移植はミニ移植とも呼ばれており、骨髄破壊的移植よりも弱い化学療法および放射線治療のあとに、造血幹細胞を投与します。
骨髄破壊的移植にくらべ、効果が低いため再発や拒絶反応が起こる可能性は高まりますが、副作用や合併症は少ないため、高齢者でも受けられる治療法です。
造血幹細胞移植はドナーが必要?
造血幹細胞移植は自分の造血幹細胞を使用する方法とドナーから造血幹細胞を提供してもらう方法があります。
自身の造血幹細胞を使用する自家造血幹細胞移植
患者さんの造血幹細胞をあらかじめ採取して保存しておき、大量の化学療法の移植前処置のあとに投与する方法を自家造血幹細胞移植といいます。
自分の細胞のため、移植片対宿主病のリスクが少ないことがうれしいポイント。ただし、移植片対白血病効果は期待できません。
ドナーから提供された造血幹細胞を使用する同種造血幹細胞移植
同種造血幹細胞移植は、大量の化学療法の移植前処置のあとにドナーから提供された造血幹細胞を移植する方法です。
ドナーはHLAの一致度が高い親子や兄弟・姉妹などの血縁者から探し、一致しない場合は骨髄バンクドナーや臍帯血ドナーから探します。
ドナーの条件であるHLAとは?
HLAとは人間の白血球の型のこと。
輸血の際は、A型・B型・O型・AB型と赤血球の一致が条件ですが、移植の際は白血球抗原HLAが重要です。HLAは、A座・B座・C座・DR座という4種類で、人間は2セット持っており、計8抗原が一致することが最良といわれています。
1セットは両親から受け継ぐため、完全に一致する可能性が高いのは、兄弟・姉妹なのです。
計8抗原すべてが一致しないと移植できないわけではありませんが、免疫関連の合併症のリスクが高まります。
近年では、免疫抑制療法を使用して、親子間など1セットの一致でも移植が行えるようになってきています。
幹細胞移植は若返り効果ある?
血液系の細胞のすべては造血幹細胞から分化します。そのため、老化した造血幹細胞に若い人の骨髄移植を行った場合、細胞が若返るのではないかというマウスの実験が行われました。
細胞の性質自体は若返られませんが、遺伝子発現パターンは若返らせることができるという研究結果が出ています。
肌の若返り効果を得るには、造血幹細胞ではなく、他の幹細胞移植が適用されています。
美容医療の幹細胞移植は「線維芽細胞移植」や「脂肪注入法」のこと
若返り効果が期待されている幹細胞移植は、造血幹細胞移植のことではなく、「線維芽細胞移植」や「脂肪注入法」のことを指します。
どんな治療をするの?
「線維芽細胞移植」の場合、まずは日焼けなどの影響を受けることが少ない耳の裏から、皮膚の一部を米粒程度採取します。多くても小さじ一杯分なので、縫合する必要もなく、傷跡もほとんど残りません。
麻酔を使用するので、治療中も痛みはなくあっという間に終わります。
採取した皮膚から、細胞を取り出して10,000倍に培養します。
多少費用はかかりますが、一度採取して凍結保存をしておけば、他の部位が気になったときに若い細胞を使うことが可能です。
後日、培養した細胞を、注射器を使って肌に戻します。注射の際も、麻酔を使用します。
人によっては注射針を刺すことで赤くなったり、腫れたりすることはありますが、メイクで隠せる程度。
細胞が増えることで、肌の力がよみがえり、ハリやうるおいが戻る仕組みなのです。
「脂肪注入法」の場合、腹部などの脂肪を採取し、不純物を取り除いて、良質な脂肪と幹細胞を使用します。しこりや石灰化の心配がほとんどないといわれています。
幹細胞移植に副作用など問題点はある?
幹細胞移植は、自分の身体から取り出して培養するため、副作用はほとんどないといわれています。
ただし、注射針や点滴針を刺すため、内出血が起こるかもしれません。
幹細胞移植にかかる金額は?
造血幹細胞移植の場合はほとんどが保険適用となりますが、美容医療の「線維芽細胞移植」や「脂肪注入法」はすべて自己負担となります。
治療の内容や病院によりますが、2,000,000円前後はかかると考えた方がいいでしょう。
まとめ
幹細胞移植とは、一般的には造血幹細胞移植のことをいいます。造血幹細胞は体内で血液細胞を持続的に作りだすことができるため、さまざまな治療に適用されています。
造血幹細胞は骨髄・末梢血・臍帯から採取することができますが、自分の造血幹細胞が使えない場合はドナーを探すことになります。
また、幹細胞移植には種類があり、若返り効果が期待できるのは「線維芽細胞移植」や「脂肪注入法」です。
外見だけではなく中身もいつまでも若々しくいたいと考える女性から注目されている再生医療。しかし、現在は保険適用にはならないため、高額な費用がかかる治療です。