ミューズ細胞とは?効果や特徴、再生医療での新しい可能性、最新情報についてわかりやすく徹底解説!
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
日々新たな医療技術が誕生しており、再生医療の実用化も少しずつ進んでいます。
最近では、ミューズ細胞という体内のさまざまな細胞に分化することができる細胞「多機能幹細胞」が注目を集めています。
ミューズ細胞は、日本で新しく発見された多機能幹細胞の1つです。
今回は、ミューズ細胞の特徴や効果、メリットや今後について、わかりやすく徹底解説します。
ミューズ細胞とは?
ミューズ細胞とは、2010年に東北大学の出澤真理教授のグループによって発見された多機能幹細胞の1つです。
血液や脊髄、皮膚や各臓器の結合細胞に元々存在しており、体を構成するさまざまな細胞に分化できる能力を持っています。
ミューズ細胞を活用することで傷ついた臓器などの組織を修復する働きがあり、元々体内に存在している細胞の1つでもあるので、腫瘍化のリスクが少ないです。
また、点滴によって投与することができるので、体への負担が少ないことも特徴的です。
そのため、ミューズ細胞を使った再生医療の研究が今後も注目されていくことが予想されています。
再生医療とは?
再生医療とは、病気や事故などの理由で失われてしまった体の組織や機能不全になった組織を再生させて、その機能を取り戻す医療技術です。
失われたり機能不全になった組織を根本的に元通りにすることを目指していることもあり、「根本治療」という呼び方をする場合もあります。
また、再生医療では生きている細胞や人工材料、遺伝子を入れた細胞などを使うための技術を使用した研究が盛んに行われています。
現時点では、完全に確立された医療技術ではありませんが、今後再生医療技術が進歩していけば、これまで治すことのできなかった病気や怪我を回復させたり、新たな医薬品の開発などが行えるようになります。
ミューズ細胞による再生医療
ミューズ細胞による再生医療では、ドナーから採取されたミューズ細胞を遺伝子導入や分化誘導を行うことなく、直接静脈に点滴で投与します。
そのため、外科手術などの体に大きな負担のかかる手術を行うことなく、治療ができます。
また、ドナーにミューズ細胞が投与されると、損傷した臓器などの組織に向かって集まっていき、損傷組織に応じた細胞に分化します。
点滴を行うだけでミューズ細胞は自ら損傷組織に移動して、修復活動を行い回復さえます。
これまで研究されてきた再生医療の中でも、安全性や汎用性が高いですが、現時点では実用化に至っていないので、今後の研究に期待が集まっています。
ミューズ細胞を実用するメリット
ミューズ細胞は実用性に優れた数多くのメリットを持っており、今後も再生医療技術として実用化させるための研究が盛んになるでしょう。
ここでは、ミューズ細胞を実用するメリットを、主に4つ解説します。
遺伝子導入が不要で安全性が高い
ミューズ細胞は、損傷した臓器が共有して発する警告シグナル「スフィンゴシン-1-リン酸」を検知して、損傷した臓器まで移動します。
また、損傷した臓器に集まった後は、自発的にその臓器に適した細胞に分化して修復する働きがあり、臓器に栄養や酸素を供給する血管も新生します。
そのため、遺伝子導入や人為的な誘導作業を行うことなく、治療に利用することが可能です。
さらに、体内の組織に元々存在している細胞の1つであるため、腫瘍化のリスクなども低いです。
ドナーマッチングが不要
ミューズ細胞は、ドナーから提供された通常の臓器や細胞と違い、ヒト白血球型適合検査や長期にわたる免疫抑制剤の投与などが必要ありません。
完全には解明されていませんが、実際にこれまで行われたミューズ細胞を使った治験では、ミューズ細胞は免疫攻撃を回避して損傷した臓器に辿り着くことができています。
そのため、ドナー細胞との拒絶反応が起こりにくいことから、ドナーマッチングが不要とされています。
点滴で投与するから外科手術が不要
ミューズ細胞は、損傷した臓器が発する警告シグナルを検知して移動するため、人為的な操作や誘導が必要ありません。
そのため、ドナーから提供されたミューズ細胞を、直接静脈に点滴で投与して治療することが可能です。
また、外科手術が必要なく、点滴のみで治療が行えるので、体力が低下している患者に使用しても体にかかる負担を最小限に抑えることができます。
必要な時にすぐ投与できる
ミューズ細胞による治療は、遺伝子導入や人為的な誘導、外科手術が不要で適合検査や免疫抑制剤も必要ないので、必要な時にすぐに投与できます。
ドナーから提供されたミューズ細胞を静脈に直接点滴で投与するだけの治療法は、これまでの再生医療と比較しても大幅に負担やコストが少ないです。
そのため、経過観察を行いながら、調整して投与することも気軽に行えます。
また、今後ミューズ細胞による再生医療が実用化されるようになれば、多くの方にとって身近な治療法になる可能性がとても高いです。
日本国内で承認されている再生医療
日本国内で承認されている再生医療等製品は、令和4年1月20日時点で16種類存在しており、今後も新しく承認される再生医療等製品は増えていくでしょう。
ここでは、日本国内で承認されている再生医療16種類の中でも、主な6つを解説します。
ヒト(自己)表皮由来細胞シート
ヒト(自己)表皮由来細胞シートは製品名「ジェイス」といい、株式会社ジャパン・ ティッシュ・エンジニアリングが、製造販売を行っている再生医療等製品です。
主に、表皮細胞を自家培養することによって、重症熱傷や先天性巨大色素性母斑、表皮水疱などの治療で効能があります。
ヒト(自己)軟骨由来組織
ヒト(自己)軟骨由来組織は製品名「ジャック」も「ジェイス」と同様に株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングが製造販売を行っています。
主に、軟骨組織を自家培養して、膝関節の外傷性軟骨欠損症又は離断性骨軟骨炎(変形性膝関節症を除く)の臨床症状を緩和させる効果があります。
ヒト(自己)角膜輪部由来角膜上皮細胞シート
ヒト(自己)角膜輪部由来角膜上皮細胞シートも、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングが製造販売を行っている「ネピック」という製品です。
主に、角膜上皮を自家培養して角膜上皮幹細胞疲弊症の治療に適応されています。
ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート
ヒト(自己)骨格筋由来細胞シートは、テルモ株式会社が製造販売を行っている「ハートシート」という名前の製品です。
主に、筋肉を採取して筋肉の元となる「筋芽細胞」を培養して、重症心不全の治療に適応されています。
ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞
ヒト(自己)骨髄由来間葉系細胞は、ニプロ株式会社が製造販売を行っている「ステミラック注」という名前の製品です。
主に、間葉系幹細胞を抽出して培養することで何倍にも増加させ、体に注入して脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善をさせます。
ヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞
ヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞は、JCRファーマ株式会社が製造販売を行っている「テムセムHS注」という名前の製品です。
主に、造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病の治療に適応されます。
臨床試験の結果について
日本国内で行われたミューズ細胞を使った臨床実験は、7種類の疾患を対象に実施されてきました。
ここでは、その中でも脳梗塞、脊髄損傷、急性心筋梗塞の3つの疾患を対象に行われた臨床実験の結果を、それぞれ紹介します。
脳梗塞を対象にした臨床試験
脳梗塞を対象にした臨床試験では、ミューズ細胞製剤を静脈内に投与することによって、運動機能障害の改善効果を示すことが確認されました。
また、この臨床試験によってミューズ細胞は、損傷した神経回路を修復し、運動機能障害を改善する新たな治療法になる可能性が高くなりました。
脊髄損傷を対象にした臨床試験
脊髄損傷を対象にした臨床試験では、脊髄損傷モデルラットを対象にミューズ細胞を静脈内に投与したことで、運動機能の改善が見られ歩行可能にまで回復しました。
また、治験では筑波大学附属病院ほか10施設で、16歳以上から75歳未満の脊髄損傷患者を対象に、ミューズ細胞を静脈内に投与して結果を見ることを予定しています。
心筋梗塞を対象にした臨床試験
心筋梗塞を対象にした臨床実験では、標準治療では十分な効果が得られない心筋梗塞の患者にミューズ細胞の投与を行った結果、新機能が改善されました。
そのため、ミューズ細胞を活用した心筋梗塞の新たな治療法が確立される可能性も高くなりました。
実用化が遠のく可能性がある
ミューズ細胞には、これまでの治療にはない数多くのメリットが確認されており、今後数多くの方を助けることができる可能性があります。
また、、2010年に発見されてからさまざまな期間が研究や実験を行っており、実用化に向けた動きが盛んになってきています。
しかし、2023年2月には三菱ケミカルグループが、2015年から続けていたミューズ細胞の開発を中止し、実用化は30年移行との見通しも発表しました。
そのため、ミューズ細胞による再生医療が実用化され、身近な治療法になるのは、かなり先になる可能性が高いです。
まとめ
ミューズ細胞は、2010年に発見されてから13年ほどしか経過しておらず、現時点では解明されていないことや治療で利用するリスクなどがはっきりしていません。
しかし、数々の臨床試験や治験では、高い治療効果を得ることができ、今後も多くの機関で研究が盛んになることが予想されます。
また、ミューズ細胞による再生医療が実用化されれば、従来の治療よりも大幅に負担が少なく効果の高い治療法になる可能性も十分にあり得ます。