幹細胞の種類や特徴とは?アンチエイジング効果も?今現在治療で利用されている幹細胞について最新情報を解説!
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
開発者の山中教授がノーベル賞を獲得したiPS細胞に代表されるように、現在さまざまな媒体ヒト幹細胞を利用した再生医療が注目を集めています。
医療や美容に効果的と紹介されることが多い幹細胞ですが、そもそもどのような能力と種類があり、それらがどのように活かされているのかもなかなか理解しづらいのではないでしょうか。
そこで今回は、幹細胞とはどのようなものであるのか、どういった点が再生医療に役立てられているのかをご紹介致します。
幹細胞とは
人間の体は何十兆もの細胞で構成されており、細胞の種類もさまざまです。なかには寿命が短く数日など短いサイクルで生まれ変わり続ける細胞もあります。またケガや病気で失われてしまうものもあり、そうして細胞が失われたり入れ替わっても組織を保つために、毎日細胞分裂が繰り返されているのです。
この失われていく細胞と同じ細胞を再び生み出し、補充する能力持つ細胞が幹細胞となります。
この幹細胞にはさまざまな細胞を作り出す分化能力と、同じ細胞を複製する自己複製能力の2つの能力が備わっています。
幹細胞の分類
この幹細胞には何種類かの種類がありますが、例外がすべての細胞になれる受精卵です。それ以外を大きく分けると、多能性幹細胞と多分化機能幹細胞の2つに分けられます。
受精卵ほどではないにしても人体の細胞ならどのような細胞でも作り出せるのが多能性幹細胞です。多能性幹細胞にはES細胞とiPS細胞などがあります
一方で多分化能幹細胞は特定の組織・器官を構成する細胞に分化する性質をもつものが幹細胞です。こちらは組織幹細胞や体性幹細胞などがあります。
幹細胞を利用した生成医療とは、これら分化能力と自己複製能力を利用した治療方法です。
全能性幹細胞(受精卵)
どのような種類の細胞にもなれる能力を全能性といい、この受精直後から 約 2 週間後、3回細胞分裂を行なった8細胞期までの受精卵だけが可能です。人体は1つの受精卵から発生しさまざまな細胞や組織をもちます。これは受精卵がすべての細胞になれることがその要因です。
8細胞期以降の受精卵は、全能性ではなく分化能力が限定された多能性をもちます。
多能性幹細胞の種類
多能性幹細胞とは、ほぼすべての細胞に分化できる幹細胞です。種類としてはES細胞、EG細胞、ntES細胞に、製作者の山中教授がノーベル賞を受賞したことでも知られるiPS細胞があります。
ES細胞(胚性幹細胞)
ES細胞は受精卵が分裂を繰り返した後、胎児になる前の初期胚から取り出した幹細胞です。
ES細胞を作るためには不妊治療を行なった際に使用せず廃棄予定だった凍結受精卵の提供を受ける必要があり、また数も多くの胚が必要となります。さらにさまざまな細胞に分化しやすい分、がん細胞になってしまう点も治療上のリスクです。
そのためES細胞を使用して再生医療を行なうには、倫理的な面とがん化しやすい点、移植時の拒絶反応があることなどをクリアする必要があります。
EG細胞(胚性生殖細胞)
EG細胞は、精子や卵子のもととなる始原生殖細胞から作成される細胞です。ES細胞とほぼ同じ性質をもつ多能性幹細胞となります。
ntES細胞(核移植ES細胞)
受精前の卵子から核を取り出して別の細胞の核を移植し、クローン胚を作って胚の内側の細胞から培養した細胞のことです。
ES細胞と同様、卵子の提供が必要という問題がありますが、患者さん自身の細胞の核を利用するので移植による拒絶反応は少ないと考えられます。
iPS細胞(人工多能性幹細胞)
iPS細胞は人工的に多能性を与えられ幹細胞です。体細胞に特定の遺伝子を導入し未分化の状態に初期化した細胞で、2006年に山中教授が世界で初めて作製に成功し、iPS細胞と名付けられました。
皮膚や血液などから採取した体細胞で作成可能で、ES細胞のように受精卵を利用する必要はありません。そのため倫理的な問題はなく、自身の細胞から作り出すことで移植の拒絶反応も少ないとされており、今後の再生医療に活用できると研究が進められています。
一方で、意図しない細胞に分化するリスクやがん化のリスクが高いため、これらのリスクを回避するための研究が今後は必須とされる点がネックです。
そのため現段階では治療には用いられておらず、現在も臨床試験で安全性や効果の確認が行われています。
多分化機能幹細胞の種類
多分化能幹細胞とはほぼすべての細胞に分化できる多能性幹細胞とは異なり、特定の組織や器官の細胞に分化する幹細胞です。種類には組織幹細胞や体性幹細胞などがあります。
組織幹細胞・体性幹細胞
組織幹細胞は自分と同じ細胞を作る自己複製能力をもつ幹細胞です。組織幹細胞には特定の組織に分化する幹細胞があり、系統ごとに役目が決まっています。
代表的なものが軟骨や腱、骨や筋肉に分化する間葉系幹細胞、血液をつくる造血幹細胞や、神経系をつくる神経幹細胞、肝臓の細胞を作る肝幹細胞などです。
これ以外にも、腸管幹細胞や精巣幹細胞などさまざまな体性幹細胞が存在しています。
間葉系幹細胞
間葉系幹細胞は、骨や軟骨、血管や心筋細胞などに分化できる幹細胞です。骨髄、さい帯組織やさい帯血、脂肪組織などから比較的容易にえることができるため、組織幹細胞のなかでも再生医療で大いに活用できると注目を集めています。
実用化されつつある再生医療
最新治療である再生医療は保険診療として認められるほどの臨床データがそろっていません。そのため、現時点ではほとんどの疾患に対する再生医療は自費診療です。
数少ない健康適応となっている再生医療は16種類で、多くの場合で体性幹細胞が使用されています。一方、多能性幹細胞を用いた治療は現在のところ保険適用となっているものはありません。
再生医療の具体例
保険適用による再生医療で代表的なものが造血幹細胞移植です。これは白血病や再生不良性貧血など、正常な血液をつくることが困難な疾患が対象で、造血幹細胞を移植して正常な血液をつくることができるようにします。
また2018年から7年間の期限付きですが、自身の骨髄から採取した間葉系幹細胞を使った脊髄再生治療薬が保険適用の治療方法として利用可能です。
ただし、同じ再生医療でも状況は異なります。スポーツ選手などが広く行っている変形性膝関節症などに対する患者本人の幹細胞もしくは血液を採取する治療は、未だ保険適用が認められず自由診療です。
保険適用の場合は医療費の1~3割負担であり、高額療養費制度などを利用すればさらに負担額は減少します。一方自由診療だと全額自費負担となるので、治療には大きな金額が必要です。
変形性膝関節症の治療を例に見ても、幹細胞を用いた再生治療で100万円前後、血液を用いた治療は3万円〜30万円前後というのが一般的な価格帯となります。
「ES細胞」、「iPS細胞」による細胞移植
現在再生医療として用いられているのは、組織幹細胞などを使用したものにとどまっておりiPS細胞やES細胞を使用する治療は行われていません
実際に多能性幹細胞が使用された再生医療は2014年に臨床研究として、iPS細胞を用いた網膜色素上皮細胞の移植手術が行われたことです。
また現在は治験段階であり、2018年11月京都大学において、パーキンソン病患者さんの脳にiPS細胞から育てた神経細胞を移植する臨床治療が行われ、今後計7名の患者に移植する計画が予定されています。
ES細胞に関しても同様に臨床試験段階です。国立成育医療研究センターが2019年10月から先天性尿素サイクル異常症という、アンモニアを体内で分解できない疾患を患った生後6日の新生児に対するES細胞を使った肝細胞の移植治療を行っています。
このように両者とも未だ治験段階ですが、将来的な期待は大きいものです。一方で意図しない細胞に分化したり化するリスクも高く、課題を解決するためには更なる研究も必要とされています。
組織幹細胞を利用した治療の特徴
再生医療で組織幹細胞や体性幹細胞を用いた治療では、骨髄や脂肪から採取した幹細胞を培養して注射や点滴で体に戻す方法が一般的です。
ES細胞やiPS細胞など多能性幹細胞と比較すると分化能力が限定的ではある組織幹細胞ですが、実は治療に応用しやすさという点ではメリットがあります。
組織幹細胞は自身の細胞由来であり拒絶反応は低く、人間の基である胚を利用したり遺伝子操作が必要がないため、倫理的な問題もクリア可能です。また採取する際に人体を傷付ける侵襲も少なくなります。さらにがん化のリスクが低く安全性が高い点も患者さん自身にとってメリットです。
これまで体性幹細胞を用いた治療法で一般的な治療方法であったのは造血幹細胞移植を用いた治療でした。これは白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液腫瘍性疾患に対する治療で安全性と有用性が確立されていました。
ですが造血幹細胞が分化できるのは血液系の細胞のみです。そのためさまざまな治療に役立てる、といった汎用的に治療に用いることはできませんでした。近年注目されている間葉系幹細胞は、軟骨や筋肉、神経などさまざまな細胞に分化することができることが明らかになっています。
間葉系幹細胞による細胞移植治療
間葉系幹細胞は、骨や軟骨、脂肪細胞など特定の組織や臓器に分化する能力があり、その分化能力を治療に役立てる研究がすでに実用レベルで進行中です。
間葉系幹細胞の研究で先行していたのは、骨髄由来の間葉系幹細胞を用いた脊椎損傷や肝機能障害などの治療方法でした。
ですが骨髄由来の幹細胞は採取できる量が限られ、移植するには培養が必要で感染や異物の混入を防ぐための培養施設も必要になるなど、制約が多い点がネックとなっていました。
一方で脂肪由来の間葉系幹細胞の分化能力は骨髄由来と同等、かつ大量に確保できることが判明してからは、これらの制約も徐々にクリアしつつあります。関節軟骨などの再生医療が進んできたもこのためです。
幹細胞を使ったエイジングケア
そしてこの間葉系幹細胞を用いた再生医療は、エイジングケアにも役立てることができます。体性幹細胞の中でも間葉系幹細胞は筋肉や骨に分化する幹細胞です。そのため年齢を重ねる不調が出やすい関節や皮膚、血管などの改善に効果があると考えられています。
年齢を重ねるごとに関節や筋肉が思い通りに動かなかったり、皮膚や血液が老化し柔軟性やハリが失われるのも組織幹細胞の不足も原因の1つとされます。
足りなくなった組織幹細胞を分化により補うことができる間葉系幹細胞で対応しようというのがエイジングケア療法です。
また間葉系幹細胞を活用した療法は、体の内側と外側両方での若返りが期待でき、身体機能や美容面など
再生医療を行える医療機関とは
幹細胞をもちいる再生医療は、その治療の妥当性や安全性のほかに医療機関の管理体制が審査され、適切と認められなければ厚生労働省から認可を受けることはできません。
再生医療をご検討されている方はまずこの認可を受けている医療機関を探し、どのような治療を行っているのか過去の実績はどのようなものであるのか、などを確認してみると良いでしょう。
一方で幹細胞を用いたコスメや美容液、培養液にエステなどを謳った商品がさまざま紹介されていますが、再生医療以外で幹細胞を使用しているものは存在しません。
これらで使用されているのはヒト幹細胞を培養した際にでる培養液の上澄み液であり、ヒト由来以外にも植物由来や動物由来のものも存在します。幹細胞とはどのようなものであるのかを知れば、そもそもそれらと再生医療とはまったくの別物であると言えるでしょう。
まとめ
今後の再生医療に大きな期待のかかるiPS細胞やES細胞などの多機能幹細胞ですが、現状では実用化に向けた臨床試験の真っ最中となります。そのため実際に私たちが治療を受けることができるようになるのももう少し先になりそうです。
一方の多分化機能幹細胞である組織幹細胞、その中でも間葉系幹細胞は既に実用化されており、治療実績が積みあがっていけば今後益々活用する機会も安全性も高まっていくでしょう。
長期的に期待の大きな多機能幹細胞も、すでに手の届くところにある多分化機能幹細胞も今後の私たちの健康や美容に大きく役立ってくれることは間違いなさそうです