半月板損傷とは?症状や原因、再生医療での治療法のメリットやデメリットを簡単にわかりやすく解説!
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
年齢を重ねていく中で、体のあちらこちらに古傷を抱えてしまうことがあります。中でも膝は様々な要因でケガをしやすいため、膝に古傷、爆弾を抱える人は珍しくありません。中でも半月板損傷は、若い人でも場合によっては経験することがあるものです。
この記事では半月板損傷について、症状や原因、再生医療のメリットなどをまとめています。
そもそも半月板とはどこにあるのか
そもそも半月板とはどこにあるものなのか、最初に半月板についての解説を行います。
半月板は膝関節のクッション
人間の脚はふくらはぎ部分にある大腿骨、スネにあたる脛骨をメインとし、膝小僧付近にあり、「お皿」とも称される膝蓋骨などがあります。これらの骨は軟骨によって支えられているほか、骨同士がくっつかないよう、関節包で守られています。
その中でも、大腿骨と脛骨のクッション的な場所にあるのが半月板です。半月板も軟骨の一種であり、内側と外側の両方にあります。これによって膝への衝撃を和らげることが可能です。
半月板損傷とはどのようなものか
半月板損傷とは具体的にどのようなものなのか、損傷のパターンなどを解説します。
文字通り半月板が損傷した状態
半月板損傷は文字通り半月板が損傷した状態を指します。損傷に関しては様々なケースがあり、縦に傷が入る「縦断裂」や横に傷が入る「横断裂」、水平に断裂する「水平断裂」など断裂の仕方によって名称が異なります。
これだけ多くの断裂の方法があるのは、後ほどご紹介する様々な損傷パターンがあるからで、損傷した形によって治療法も変わります。
半月板損傷の症状とは?
半月板損傷とはどのような症状なのか、代表的な症状をまとめました。
膝を曲げる際に痛みがある
屈伸運動などで膝を曲げる際や膝を伸ばす際に痛みが生じることがあります。これは、膝が筋肉と靭帯によって支えられているからです。半月板損傷の状態だと、関節自体が安定しておらず、膝に負担がかかりやすくなります。そのため、膝に負荷がかかる時に膝を守ろうと瞬時に筋肉の収縮、いわゆる「筋収縮」が半月板の周りに起こりやすく、この収縮がやや激しいために、痛みが生じるというわけです。
膝がロッキングする
膝を曲げたり伸ばしたりする際に痛みが生じるうちは、まだ膝が動かせる状態ですが、さらに悪化してしまうと膝を曲げることも伸ばすこともできなくなり、歩行が困難になるケースがあります。この症状をロッキングと言います。
ロッキングは半月板が損傷して傷が入っている際に、その半月板が関節の中で挟まってしまう状態を指します。この状態だと動かしようがなくなり、当然ながら歩くことは難しくなります。ロッキングを改善する場合、整骨院などで牽引をしてもらい、引っかかった部分を外す施術が必要になるほか、場合によっては手術も想定されるでしょう。
半月板損傷の主な原因とは?
半月板損傷はどのようなときに起きるのか、その原因をまとめました。
スポーツなど激しい動作があった場合
そもそも私たちは歩いたり走ったりをするだけで膝に相当な負担をかけています。特にスポーツを行う場面ではさらに負荷がかかりやすく、より激しい動作があった際に膝が耐え切れずに半月板を損傷してしまうことがあります。
バスケットボールなどダッシュや着地など複雑な動作が絡みやすいと半月板損傷だけでなく前十字靭帯などを断裂するケースもあるため、単に半月板損傷だけで済まないこともあります。
加齢によるもの
毎日のように歩いたり走ったり、ジャンプしたり立ち上がったりを繰り返す中で、半月板は傷つきやすくなります。普通に歩行するだけで体重の倍以上の負荷がかかるとされ、ちょっとした力が加わった際に半月板を損傷してしまうことがあり、注意が必要です。
特に年齢を重ねて太り始めている人は既に傷ついている状態でありながら、余計に負荷をかけていることになるため、半月板損傷を引き起こしやすい状態といえます。また膝回りの筋肉が少なくて安定感がなくなってきた場合も損傷の要因になりやすいので、注意が必要です。
半月板損傷を治療する方法は?
半月板損傷の場合、どのような治療方法があるのか、ご紹介します。
半月板の保存療法
最近の主流となっている治療法は半月板の保存療法です。半月板損傷がさほど重くなく、ロッキングが起きていない場合に保存療法がとられます。この保存療法ではヒアルロン酸を注入する方法や炎症を抑える薬を服用しつつ、半月板周辺の筋肉を強化していく運動療法が一般的です。
これと同時並行で、ダイエットを行って体重を減らすことで負荷を下げるケースもあります。あとは関節を守るサポーターを装着するなど、普段の生活でできるだけ負荷をかけずに膝の安定のために周辺の筋肉をつけていくことになるでしょう。
半月板の手術療法
半月板の手術療法は、ロッキングが起きている場合やスポーツが原因で生じた損傷のケースで採用されやすい方法で、ケガを負ってからできるだけ速やかに復帰したい場合に行われます。
手術にも2つのパターンがあり、傷ついた半月板をとってしまう「切除術」、半月板を縫い合わせていく「縫合術」の2つ。半月板を保存しながら治療を進めるケースが増えていることもあり、半月板を縫合する方法が一般的になりつつあります。
半月板損傷は再生医療で改善できる?
近年は再生医療を通じて、病気やケガの治療を行える時代です。半月板損傷の場合、再生医療で改善は可能なのか、ご紹介します。
再生医療を活用すれば手術を回避できることも
再生医療では主に幹細胞を活用することが多く、半月板損傷の場合でも同じです。幹細胞を投与することで投与時から徐々に痛みが引いていく結果が示されており、手術を回避することも十分に可能です。
多ければ多いほど痛みも改善しやすく、治療の成果も出やすいことが様々な結果で明らかにされています。手術となるとかなり大掛かりになり、入院も余儀なくされますが、幹細胞の投与だけであれば手術の必要はなくなり、入院もしなくて済みます。
ちなみに、半月板損傷で手術・入院を行う場合、リハビリを含めて10日から2週間ほどかかることがあります。これだけの期間を確保するには有給休暇の消化などを強いられるほか、仕事柄それだけの期間は休めないという方もいるでしょう。再生医療を活用すれば、これらを回避できるとした場合、コスト的には釣り合う可能性もあります。
再生医療に関するメリット・デメリット
再生医療に関してメリットもあればデメリットもあります。それぞれのメリット・デメリットについてご紹介します。
自然に治りにくい半月板が自然に治りやすくなる
人間の場合、骨折などをしても時間が経過すれば自然と治りますが、これは血が通っているために治癒に必要な栄養が運ばれることで治るようになるからです。半月板の場合、一部だけ血が通っているものの、その多くには血が通っていないため、自然には治りにくく、放置しても悪化するのみです。
幹細胞を注入する再生医療の場合、半月板にくっついてどんどん修復させていくため、注入することで自然に治っていくような状態になります。自然治癒が難しかった半月板損傷において、幹細胞を注入することで「自然治癒」の可能性が高まり、手術を回避できるのが大きなメリットです。
とにかくお金がかかるデメリット
幹細胞を注入する再生医療は基本的に保険が効かないため、すべて自費です。いわゆる自由診療となるため、その値段はクリニックなどでまちまちになり、100万円、200万円と結構な差がみられます。
どの部位から採取した幹細胞を使うのか、そして、注入する幹細胞をどれくらいの量にするのか、幹細胞は保管するのかなど、金額が大きく変わってしまいます。たくさんの量を入れることになれば、それだけ増やさなければならず、費用もかかります。
半月板損傷の治療費はどれくらいかかる?
半月板損傷を治療する場合に費用はどれくらいかかるのか、ご紹介していきます。
手術を必要とする場合
半月板損傷で手術が必要となった場合、その費用は切除術や縫合術で若干変わり、切除術の方が安くてだいたい10万円ほどとされています。縫合術の場合は20万円ほどと高めです。半月板損傷の手術は保険適用となるため、今ご紹介した金額は健康保険などを使った金額となります。
また「高額療養費制度」があるため、年収がさほどなくても一定の金額までしか支払わなくて済みます。そのため、実際に手術をしても、場合によっては10万円を大きく割り込むこともあるため、費用的には手術の方が安くなります。
再生医療の場合
再生医療の場合は脂肪などから幹細胞を取り出して、それを増やした上で注入し、何回か健診を重ねていきます。結局のところ、幹細胞を培養するのに多額の費用がかかるとされ、その結果、100万円ほどの費用がかかります。
これより費用が増える要因として、「PRP療法」と呼ばれる血小板を活用した別の再生医療をセットで利用する場合で、2つの再生医療のコンビネーションで改善を力強くアシストします。
確かに費用こそかかりますが、手術なしで自然に改善を目指すことができるので、体力的に手術は難しい人にとっては再生医療のほうが望ましいでしょう。
まとめ
半月板損傷はスポーツによるケガのほか、加齢によって経年劣化を起こしているところにちょっとした負荷がかかることで起こりやすいケガです。比較的軽ければ保存療法もできますが、ロッキングなどがあれば手術も視野に入れなければなりません。
一方で再生医療を活用すれば、費用こそかかるものの、自然に治していくことも視野に入ってきます。保存療法か、手術か、それとも再生医療か、費用だけでなく膝の痛みをどこまで許容できるのかなどを踏まえて選択していくことが求められます。