ひざ軟骨と再生医療について早わかり!軟骨は再生しない?治療方法と費用について徹底解説!
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
再生医療は、新しい治療法として注目を浴びており、臨床研究が加速しています。根治が難しかった難病にも、明るい希望をもたらしてくれる医療として期待されているのです。整形外科の分野でも、再生医療の研究が進んでいます。とくに軟骨は一度失ってしまうと再生されることがないため、再生医療の力が必要なのです。そこで今回は、ひざ軟骨と再生医療について、治療法や費用などくわしく解説していきます。
再生医療とは?
再生医療とは、失われた臓器や組織を再生すべく研究が進められているもの。
人が持っている自己修復能力を上手に引き出して、病気やケガなどで失われた身体の機能を回復させたり、形状を修復したりすることをいいます。
整形外科でも再生医療が受けられる!どんな治療をするの?
再生医療は、さまざまな分野で研究が進められており、整形外科の分野では、骨折や軟骨の治療の根治に向けて、研究が行われています。
具体的にはどのような治療を行っているのでしょうか。
血液を使った再生医療
自分の血液を使った再生医療は、血液中に含まれる血小板を利用したPRP(多血小板血漿)療法といいます。
主に筋肉や靭帯、腱などの損傷や、関節の痛みを改善するために行われ、スポーツ選手などが、負担なくケガを治すスピードを速めるための治療法としても注目されています。
変形性関節症による膝の痛みやアキレス腱の炎症、テニス肘などの治療にも役立てられています。
細胞移植による再生医療
細胞移植では、骨や軟骨の再生を目指し、主に体性幹細胞を中心に研究が進められており、一部の医療機関で治療が開始されています。
体性幹細胞とは、すでに私たちの身体にある幹細胞のため、iPS細胞などと違い、癌化の心配などはなく、安全性が高いといわれています。
整形外科では、大腿骨骨頭壊死や偽関節などの骨折の治療に使われており、自分の骨盤から幹細胞を採り、注射器で移植する方法です。
また、軟骨や半月板の再生にも再生医療が注目されています。
自家培養軟骨移植術は、自分の健常な軟骨細胞を体外で培養し、軟骨の欠損部へ移植する治療法です。
軟骨は再生しない?
軟骨は自己修復能力に乏しいため、傷んでしまうと自然に再生することはありません。
「骨折しても骨はつながるのに、なぜ軟骨だけ再生しないの?」と不思議に思っている方もいるでしょう。
軟骨組織にはもともと血管がないからです。血液の中には、傷を治すために必要な細胞が含まれていますが、軟骨には血管がないため、治すための細胞も栄養も届けられることがないため、自然治癒することがないといわれています。
軟骨を治療する方法「自家培養軟骨移植術」とは?
自然治癒することがない軟骨を治療できる再生医療として注目されている「自家培養軟骨移植術」。
どのような治療方法なのでしょうか?
自家培養軟骨移植術とは?
自家培養軟骨移植術は、先ほど細胞移植による再生医療でご紹介のとおり、自分の健常な軟骨細胞を体外で培養し、軟骨の欠損部へ移植する治療法です。
人間はたとえ身体にいいものであっても、今まで自分の身体の中になかったものが体内に侵入すると、異物と判断し排除しようと攻撃をします。この働きを拒絶反応といいます。
移植では拒絶反応のコントロールが難しいとされていますが、自家培養軟骨移植術は、自分の軟骨組織から作られるので、異物と判断されることはほぼなく、拒絶反応が起こりにくいのです。
また、今まで治療できなかった大きな損傷も治療することができます。
自家培養軟骨移植術が受けられるのは外傷性軟骨欠損症と離断性骨軟骨炎
自家培養軟骨移植術が受けられるのは、外傷性軟骨欠損症と離断性骨軟骨炎の患者さんです。
外傷性軟骨欠損症とは、交通事故やスポーツなどで外部から強い衝撃を受け、ひざ軟骨がかけたり剥がれたりしてしまう症状。
離断性骨軟骨炎は、スポーツや重労働で、ひざに負担がかかることで軟骨の下にある骨とともに軟骨が剥がれてしまう症状のことをいいます。
再生医療の費用はどのくらい?
再生医療は高額なイメージがありますが、実際にどのくらいかかるのか見ていきましょう。
細胞移植はかなり高額
変形性ひざ関節症の治療は、幹細胞の投与だけで100万以上かかるといわれています。他にも検査や幹細胞の培養する費用がかかるため、気軽に決意できるような金額ではありません。
血液を使ったPRPも高額
PRPによる治療は、病院によって差がありますが、ほうれい線や目の下のクマなど一部分につき30万円前後が相場です。
ヒアルロン注射を打っても改善しない変形性ひざ関節症の痛みの軽減にも有効とされていますが、こちらも1回の治療で30~50万円かかると考えた方がいいでしょう。
自家培養軟骨移植術は保険適用!
自家培養軟骨移植術は、2013年4月から保険が適用されています。
ただし、スポーツや事故が原因で外傷性軟骨欠損症または離断性骨軟骨炎で、欠損した軟骨が4㎠以上という条件があり、半月板損傷や変形性ひざ関節症は適用外です。
自家培養軟骨移植術は、高額医療費制度の対象にもなるため、年齢や年収、入院期間によって変動しますが、6~25万円程度で治療を受けることができます。
保険が適用されないものも!
保険適用される治療といっても、細かくわかれており、手術料や検査料、麻酔料・入院料・注射料などは、病院によってかかる費用は違いますが、保険の対象になります。
しかし、食事代や個室料、追加サービス料などは一般的に適用されません。
変形性ひざ関節症の治療も研究が進められている
現在は保険適用されていない、変形性ひざ関節症の治療ですが、多くの機関が研究を進めています。
変形性ひざ関節症はどのような症状なのか、またどのような治療方法が研究されているのか見ていきましょう。
変形性ひざ関節症とは?
変形性ひざ関節症とは、ひざに痛みを伴い、関節が動きにくい、変形するなどの症状が現れます。軟骨がすり減ることで発症するといわれており、進行すると骨にまで影響が及び、歩くことができなくなってしまうことも。
加齢や肥満などの原因もあるため、予防することが難しい病気です。
iPS細胞による再生医療
変形性ひざ関節症で失った軟骨を再生するために、iPS細胞から軟骨細胞と組織を作り、関節に移植する方法が研究されています。
現在はラットやミニブタで実験を行い、成功したそうです。
自己細胞シートによる再生医療
患者さんから採りだした健康なひざ軟骨を培養し、シート状にしたものを欠損部に移植するという自己細胞シートによる治療方法も研究されています。
再生医療のメリットとデメリット
いいことばかりに見える再生医療ですが、メリットはもちろん多いですが、デメリットもあります。
理解をした上で治療を検討しましょう。
再生医療のメリット
再生医療のメリットは、ひざを切らずに治療が行えるので、入院をする必要がありません。
もちろん治療後は無理をしてはいけませんが、周りに心配をかけたくないというときも助かります。
また、拒絶反応が起こることもほとんどないため、副作用が少ないのもメリットといえるでしょう。
膝軟骨の治療は、保険診療だけでは痛みを和らげることはできても、病状はどんどん進行していきますが、再生医療を選ぶことで進行を遅らせることが可能となります。
再生医療のデメリット
再生医療の安全性や効果は認められつつありますが、十分なデータがそろっていないため、保険適用の治療も限られています。すぐに治療を受けたいという場合は、すべて自己負担となるため、高額な費用がかかるというデメリットが。
また、効果には個人差があります。すでに重症化している場合は、効果が表れにくいことも覚悟しなくてはなりません。
まとめ
ひざ軟骨は、自然と再生することがないものです。
そのため、再生医療の力が不可欠といっても過言ではありません。
再生医療は、安全性は認められているものの、データが乏しく保険適用をされるものが一部であることから、費用が高額となります。
ただし、整形外科の分野では、自家培養軟骨移植術は、条件はあるものの保険適用がされるため、諦めずに相談してみるといいかもしれません。