股関節の治療に再生医療はいつから利用できる?保険適用の治療と適用外の治療について分かりやすく徹底解説!
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
股関節の痛みに悩まされている人に、手術を受けずに再び歩く喜びを与えてくれる画期的な治療法があります。
それは、すでに世界中で注目されている「再生医療」です。
この記事では、股関節の再生医療について詳しく解説していきます。
また、現在の再生医療に関する保険適用の有無についても、分かりやすく説明していきます。
治療の未来にますます期待されている再生医療について、知識を深めていきましょう。
再生医療とは?
再生医療とは、ヒトが本来持っている「自然治癒力」を高める医療のことです。
例えば、すり傷をした箇所に自然とかさぶたができてやがて元の皮膚の状態に戻るなど、人間が本来持っている治す力のことを自然治癒力と言います。
自然治癒力を高めることはすなわち手術をすることなく、痛みなどの症状を改善させることができる最新治療になります。
日本ではすでに再生医療に関する法制度も整備されており、より盛んに再生医療が実施されるようになりました。
損傷してしまった組織や機能を患者自身の細胞によって修復できる再生医療は、私たちの体にある血液や幹細胞が原料となります。
次に、血液や幹細胞について説明していきます。
成長因子と幹細胞について
血液中に含まれる血漿や血小板には、組織の修復を促進する成分が含まれています。
特に血小板に含まれる「成長因子」は、人が本来持っている自然治癒力を促進するといわれている重要な成分です。
また、骨髄や脂肪に含まれる「幹細胞」は神経を再生する作用を持ちます。
再生医療は成長因子や幹細胞を患部に注射することで、自然治癒を促していきます。
成長因子や幹細胞についてそれぞれご説明します。
成長因子
成長因子とは、体のさまざまな細胞で作られるたんぱく質の一種で「細胞再生因子」や「グロスファクター」とも呼ばれています。
成長因子は成長ホルモンの分泌に関わります。
また、細胞の増殖を促すため、傷を治す過程で重要な役割を担っています。
さらに、成長因子はターンオーバーを正常に働かせる作用も期待できます。
幹細胞
さまざまな再生医療の手段として最も有望視されているのが、幹細胞を用いる方法です。
幹細胞には、自らその組織に分化する能力があります。
また、成長因子やサイトカインの物質を分泌して周囲の再生を促します。
さらには、再生に必要な新しい血管を呼び込んだりする能力もあります。
幹細胞を用いた再生医療で実施された治療法
現在、幹細胞を用いた次のような再生医療が人を対象に実施されています。
・閉塞性動脈硬化症
・熱傷
・脳梗塞
・脊髄損傷
・心筋梗塞
・肝硬変
・変形性関節症
など
変形性股関節症と再生医療
この項では、股関節で加齢とともに多く発症する変形性股関節症と再生医療について、ご説明します。
従来の変形性股関節症の治療法から見ていきましょう。
変形性股関節症とは?
加齢とともに軟骨がすり減って関節が傷み、骨と骨がぶつかって痛みを感じるようになる症状です。
変形性股関節症のほとんどは、臼蓋形成不全が原因で発症します。
寛骨臼形成不全の方は、大腿骨頭を支えきれず一部の骨に負荷がかかり、変形性股関節症に進行しやすくなります。
変形性股関節症の従来の治療法
従来の股関節の変形に伴う痛みの治療は主に痛み止めの薬やリハビリ、筋力トレーニングの方法以外に考えられませんでした。
股関節は膝関節のようにヒアルロン酸の注射をすることができないため、関節の軟骨が徐々に減っていきます。
また、症状が進んでいくと足を引きずるように歩くようになり、一度すり減ってなくなった軟骨は、自分の力では元に戻ることはできなくなります。
歩くのもままならないぐらいに症状が進んで日常生活が困難になった際には、人工関節置換術を用いた治療の選択肢しか残されていませんでした。
人工関節置換術を用いた治療とは?
人工関節置換術とは、障害のおこった関節を金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工の関節で入れ替える手術方法です。
現在、日本では股関節や膝関節を中心に1年間に20万例以上の手術が実施されていると言われています。
人工股関節置換術の種類は主に「全人工股関節置換術」と「人工骨頭置換術」の2種類の方法があります。
また、最近ではできるだけ小さい皮膚切開で手術を行うMIS(最小侵襲手術)が考案されています。
人工関節の手術を用いた治療のデメリット
人工関節を用いた治療には、次のような患者には手術が難しいというデメリットがあります。
- 手術に抵抗がある方
- 基礎疾患を持っている方
- 手術が難しいほどの高齢者の方
また、以下のような術後の懸念もあります。
- 血栓症や肺塞栓症、出血
- 感染症や神経障害など合併症のリスク
このようなデメリットを解消してくれるのが再生医療です。
次に、股関節痛における再生医療のメリットについて詳しく説明していきます。
股関節痛の再生医療のメリットとは?
従来の治療法である人工股関節置換術に代わり、股関節痛に対して効果が期待できる再生医療について、主なメリットをご紹介します。
- 手術を回避できる
- 副作用が少ない
- 再発の痛みを改善できる
それぞれ内容について詳しくご説明します。
手術を回避できる
再生医療は脂肪由来の幹細胞を股関節に注射して、すり減った軟骨が再生されます。
そのため、手術をしなくても痛みを軽減できる可能性が高くなります。
また、股関節の変形が末期になる前に再生医療を受けることにより、人工関節術をするほどの重症化を防ぐことが期待できます。
副作用が少ない
再生医療は、患者自身から採取した幹細胞を培養して治療箇所に移植します。
そのため、拒否反応などの副作用が起こる可能性はかなり低くなります。
また、再生医療は薬剤治療や手術による副作用や感染などの合併症リスクが少ないこともメリットに挙げられます。
再発の痛みを改善できる
再生医療は、数年にわたって持続した痛みや再発を繰り返す痛みを改善できるという点で大いに役立ちます。
通常、痛みはケガや病気の治癒過程でおさまっていきますが、治癒しても痛みだけが残る場合があります。
また、診察しても痛みの原因が不明なことがありますが、この場合痛みが広範囲ではっきりしないのが特徴です。
原因不明の痛みをおさえる方法には対症療法が一般的でしたが、再生医療では根本的治療が期待できます。
再生医療の保険適用について
最新治療である再生医療は、安全性が確立されて効果が立証されています。
その反面、現在において保険診療として認められるほどの臨床データが揃っていません。
そのため、現時点ではほとんどの疾患に対する再生医療は自費での診療となります。
しかし、特定の条件を満たした一部の疾患においては、数年前から保険の適用が認められています。
この項では、保険適用の再生医療と保険適用外の再生医療について解説していきます。
現在の保険適用の再生医療
現在、再生医療の治療法で保険適用されているのは「自家軟骨培養移植」です。
患者から採取した膝軟骨組織の一部を、コラーゲンが入ったゲル状の物質の中で約1か月間培養します。
そしてジャックと呼ばれる自家培養軟骨を作り、欠損している部分に移植する方法になります。
しかし、自家軟骨培養移植が保険適用になるのは限られています。
現在では、膝関節におけるスポーツや事故などによる外傷性軟骨欠損症、もしくは離断性骨軟骨炎のみになります。
股関節の再生医療の種類について
現在の股関節の再生医療の治療法は「幹細胞」と「PRP」の2種類があります。
幹細胞とPRP、それぞれの特徴や違いについてご説明していきます。
幹細胞治療
幹細胞とは、さまざまな組織や細胞に変化できる細胞です。
自分の脂肪の中にある幹細胞を少量取り出し、それを培養して数を増やします。
それから、関節の中に幹細胞を注射で投与します。
今までは、一度すり減った軟骨は2度と修復されないと言われてきました。
しかし、この培養された幹細胞を投与することにより、軟骨をもう一度再生させることが可能になります。
その結果、一回の注射だけでもかなりの痛みの軽減が期待できます。
PRP治療
自分の採血した血液を使って、その中に含まれる成長因子によって損傷した組織の修復を行います。
このPRPの中にはいろいろな組織に変化できる幹細胞は入っておらず、失った軟骨を再生させることができません。
このことが、幹細胞治療とPRP治療との大きな違いになります。
幹細胞治療の方が軟骨を再生させることが出来るため、痛みを取る効果はとても高くなりますが、その分値段も高くなります。
また、PRP療法には次のような種類があり、種類によって成分や製法が異なります。
- PRP療法
- APS療法
- PFC-FD療法
それぞれの特徴を確認していきましょう。
PRP療法
患者から採取した血液を加工してPRP(多血小板血漿)を抽出し、関節に注射します。
APS療法
PRPをさらに濃縮し、関節の健康に関わる成分だけを取り出して注射します。
PFC-FD療法
PRPをさらに高濃縮し、関節内や靭帯などに投与します。
上記いずれの治療法も、痛みを抑える効果や関節機能を改善する作用が期待できます。
股関節の再生医療の現状
現在、股関節の再生医療は国内ではほとんど行われていないのが現状です。
理由としては、股関節は幹細胞の質と量の高い基準が求められるからです。
股関節は体の中で一番大きな関節になるため、その分幹細胞の数の多さが重要になります。
また、幹細胞の生存率が高く質が良いものでないと、股関節の再生医療の効果は期待できません。
さらに、解剖学的に膝関節に比べても関節の隙間が狭いため、幹細胞を注入しにくい構造になっています。
その他、一般的な注射では股関節内に上手く幹細胞を注入するのがとても困難であることなどから、股関節の再生医療が少ない要因になります。
再生医療の法律について
従来の再生医療などの安全性の確保に関する法律は、厚生労働省が定める「再生医療法」があります。
再生医療法ではリスクに合わせて1種、2種、3種の3段階に分けられています。
また、2014年からはPRP療法も他の再生医療と同じく再生医療法のもとで行わなければならなくなりました。
そのため現在では、PRP療法、APS療法2種ともに厚生労働省への届出が必要になります。
さらに、血液からPRPやAPSを採取する際のキットも国内にはさまざまな種類があります。
その中には医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に基づいた申請が承認されているものもあれば、そうでないものもあります。
もし、どのようなものを治療に使用するのか不安がある場合は、治療を受けられる医療施設の医師に事前に確認してみることが必要です。
再生医療の料金について
再生医療を受ける際の費用は、以下の金額が目安になります。
- 幹細胞治療…100万円前後
- PRP治療…3万円〜
- PRP-FD療法やAPS療法…30万円前後
なお、費用は医療機関によって異なります。
まとめ
今回は「股関節の治療に再生医療はいつから利用できる?保険適用の治療と適用外の治療について分かりやすく徹底解説!」についてご説明しました。
まとめますと、
- 再生医療は手術をすることなく股関節の痛みを取り除ける方法である
- 現在の再生医療の保険診療は、自家軟骨培養移植のみ
- 現在の股関節の再生医療の治療法は「幹細胞」と「PRP」の2種類がある
です。
現段階、再生医療は保険適用が少ないため、現在股関節の痛みで悩まれている方にとっては問題が残ります。
しかし、再生医療が私たちの体を支えてくれる希望の光であることは間違いありません。
これから再生医療が、より私たちの身近に感じられる未来の治療法になるように期待していきましょう。