成長因子とは?わかりやすく解説!肌への効果やケガの治療、再生医療での活用方法について
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
再生医療の広がりとあわせて耳にすることが増えてきた「成長因子」。最近は、ケガの治療のほかにも化粧品や美容医療などで活用の場が広がってきています。
しかし、「成長因子」の具体的な効果など、実情はあまり分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、「成長因子」の肌への効果やケガの治療、再生医療での活用方法について詳しくご説明します。
成長因子とは
成長因子とは、動物の体内で特定の細胞の増殖や分裂を促進するタンパク質の総称で、「細胞再生因子」や「細胞増殖因子」、「グロスファクター」とも呼ばれています。
成長因子は、成長ホルモンの分泌を活性化させたり、キズを治すために細胞の増殖を促すしたりと人体にとって重要な役割を担います。
一方で、年齢を重ねると成長因子の分泌は減少し、キズが治るのに時間がかかったり、肌の調子が悪くなったりとさまざまな老化現象としてあらわれてきます。
そのため、近年ではバイオテクノロジーの進歩により医薬品や化粧品に成長因子を取り入れて、医療や美容の現場で幅広く活用されるようになってきています。
主な成長因子の種類と働き
ひとことに成長因子といっても、多くの種類が存在し、それぞれの働き方も異なります。
EGF(上皮成長因子)
肌の表皮幹細胞に作用し、表皮幹細胞に増殖の指示を出します。肌の細胞は、一定周期で生まれ変わる仕組み(ターンオーバー)を持っていますが、加齢やダメージなどによって乱れていきます。EGFは、ターンオーバーを正常なサイクルに近づけ、肌の生まれ変わりを促進します。そのため、若返り治療やスキンケア製品に使用され、シミやくすみ、ゴワつきを改善する効果が期待できます。
FGF(繊維芽細胞成長因子)
皮膚の奥にある真皮内細胞の線維芽細胞を増殖させる働きをします。線維芽細胞は、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸など、ハリや弾力のある肌に欠かせない成分を生み出す役割を担っていてるため、シワやたるみを改善する効果が期待できます。
KGF(ケラチン細胞増殖因子/表皮細胞増殖因子)
「発毛促進因子」とも呼ばれ、毛母細胞に作用して増殖・分裂を促すことで毛髪を成長させる効果が期待されています。その他にも、皮膚の表面と口腔、粘膜、食道、胃、腸管、乳腺などの多くの組織の上皮細胞に存在していることが判明しており、ケガの治療薬にも利用されています。
PRP(多血小板血漿)
血液の中にある「血小板」を多く含んでいる成分で、再生医療によるケガの治療や若返り治療に使用されています。PRP自体がEGF、FGFをはじめとしたさまざまな成長因子を放出しています。
IGF(インスリン様成長因子)
新しい細胞を生み出す働きをし、損傷を受けた細胞の再生を促す役割があります。代謝の調節、老化の抑制など、重要な役割を果たすホルモンです。
肌のハリや潤いを保つために必要なヒアルロン酸の生成にも関わっており、シワやたるみ予防にも重要な働きを担っています。
TGF(トランスフォーミング増殖因子)
コラーゲンやエラスチンを強化する働きをします。線維芽細胞の働きで生み出されたコラーゲンやエラスチンの構造を強化する機能を持ち、抗酸化作用もあるため、肌の組織構造を守る役割があります。
美容医療に活用される成長因子
肌の若返り効果
人体は、ヒト成長ホルモンというホルモンによって成長していますが、ヒト成長ホルモンは20代後半から分泌が減少していきます。老化現象の原因は、ヒト成長ホルモンの分泌の減少といわれています。そこで、ヒト成長ホルモンを活性化させてターンオーバーを正常化させることが美容面では重要になってきます。成長因子は、ターンオーバーを促す細胞に対して働きかけることで肌の若返り効果が期待されています。そのため、肌のトラブルに多い、シミ、くすみ、シワ、たるみなどへの対策として成長因子を活用した美容医療が提供されています。
成長因子を活用した美容医療
成長因子を活用した美容医療には、以下のような治療法があります。
- FGFを活用した美肌治療
加齢にともなうシワや肌の凹みにFGFを注入する美容医療です。肌のハリや弾力の衰えに対して、真皮層のコラーゲン繊維などを生み出す「線維芽細胞」を増やす働きのあるFGFを直接注入することで、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸の働きを活性化することに効果が期待されています。 - PRPを活用した美肌治療
患者自身の血液から採取したPRPを、シワやたるみの気になる部位に注入する再生医療です。PRPの注入によって肌細胞が活性化され、コラーゲンの増殖などが起こることで肌の張りを取り戻し、シワやたるみの改善効果が期待されています。また、自分の血液の中に含まれるPRPを使用するため、アレルギー反応の心配がないことも特徴です。 - プラセンタを活用したアンチエイジング
プラセンタはヒトの胎盤から抽出されるエキスで、EGF、FGF、IGFなど成長因子が含まれており、総合的なエイジングケア効果が見込まれています。プラセンタを活用した美容治療には、皮下注射、点滴、サプリなどの内服、イオン導入、ダーマペン(極細の針のついたペン)で肌に穴を開けて浸透させる方法などがあります。
ケガや病気の再生医療で活用されている成長因子
膝変形性関節症の再生医療
変形性膝関節症は、老化などにより、膝関節の軟骨がすり減ることで、膝の形が変形し、痛みや腫れが生じる症状です。日本国内では潜在的な患者が約3000万人もいるといわれており、発病率は高齢になるほど上がる傾向にあります。
変形性膝関節症は、重症になると、人工関節に置き換える手術が必要とされていますが、最近では、成長因子を活用した再生医療による治療も注目されています。
膝変形性関節症の再生医療で活用されるPRP療法
患者自身の血液を採取し、遠心分離機にかけて、血液中にある血小板を含むPRPを取り出し、関節内に注射で注入する再生医療です。PRPの働きにより、患者自身の再生力を高め、膝変形関節症では、痛みの軽減効果や変更の進行を食い止める効果が期待されています。また、靭帯損傷や筋肉断裂のケガの治療にも取り入れられています。
PRP療法を進めたAPS療法
患者自身の血液中から取り出したPRPに、さらに脱水・濃縮という工程を加えて、炎症を抑えるタンパク質や軟骨の健康を守る成長因子を高濃度に抽出したAPSを関節内に注射で注入する再生医療の治療法です。PRPの作用に加え、APS(自己タンパク質溶液)によって膝関節内の炎症を抑え、痛みの軽減が期待できます。
発毛・育毛医療に活用される成長因子
育毛メソラフィー
細胞増殖効果や、皮膚を成長させるホルモンの活性効果が認めらるFGF、KGFなどの成長因子を用いたAGA治療として育毛メソセラピーがあります。育毛メソセラピーは、注射器や針の付いたローラー、レーザー照射などで成長因子を含んだ薬剤を頭皮に注入します。育毛メソセラピーには薄毛の進行抑制や発毛の促進といった効果が期待されています。
HARG療法
HARG療法は、幹細胞から抽出した150種類以上の成長因子を含んだHARGカクテルを頭髪に注入して発毛組織に働きかけることで、髪の成長力を取り戻すことに期待するAGA治療です。
HARG療法とメソセラピー治療は、どちらも頭皮に薬剤を注入する治療法ですが、HARG療法で使用するHARGカクテルは、成分構成が決まっているため、クリニックによって治療結果に大きな差が生じない特徴があります。
歯科医療で活用されるの成長因子
歯科クリニックの歯周病治療でも成長因子は活用されています。骨や筋肉などの細胞の増殖や分化を促す成長因子である「bFGF」を含んだ薬剤を使い、歯周病で破壊された歯周組織の周囲にある細胞を増やし、さらに血管を作って細胞に栄養を送り込みます。これらの作用により歯周組織の再生が期待されています。
成長因子配合の化粧品
最近では、成長因子を配合した化粧品が見られるようになっています。
成長因子にもさまざまな種類がありますが、効果的な化粧品を見分けるためには、どんなところに注目するべきでしょうか?
FGFが含まれている化粧品
FGF配合の化粧品には「ヒトオリゴペプチド-13」「ヒト遺伝子組換オリゴペプチド-11」と表示されています。主に期待されている効果は、口元や目の下の深いくぼみ、ニキビの凸凹跡の改善です。
EGFが含まれている化粧品
EGF配合の化粧品には「ヒトオリゴペプチド-1」「ヒト遺伝子組換オリゴペプチド-1」と表示されています。主に美容液やクリーム、フェイスパックに配合されています。
日本EGF協会の認証マーク
日本EGF協会とは、EGF配合化粧品を、医療関係者らと第三者的な視点での検証して、消費者に安全な化粧品の知識や有益な情報を提供することで、消費者の保護に寄与することを目的とした設立されたNPO法人です。
日本EGF協会は、使用原料や配合割合などについて、「EGF協会認定商品の認定ガイドライン」を定めており、ガイドラインをクリアした製品には、認証マークを付与しています。
EGF配合の化粧品を選ぶ際には、日本EGF協会の認証マークが目安になり得ます。
成長因子を摂りすぎるとどうなる?
成長因子は美容効果に高い期待がもたれていますが、多く摂ればいいというものではありません。必要以上に摂りすぎると、身体へ悪影響を及ぼす危険性も懸念されているので注意が必要です。大事なことは質と量のバランスなので、自分に合った摂り方を知りたい場合は、美容クリニックなどに相談することも検討しましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?さまざまな場面で活躍するようになってきた成長因子ですが、その働きについて全てが解明されている訳ではありません。今後も、研究が進むことで、より効果的な成長因子の種類や活用法が発見され、さらなる治療に役立つ日がくることが期待されています。