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表皮水疱症は再生医療で治る?症状や原因、治療方法についてわかりやすく徹底解説!

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院長 黒木 良和

九州大学医学部卒
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授

2,000年代以降、再生医療の研究はめざましい進歩を遂げてきました。京大の研究チームがiPS細胞を用いたパーキンソン病の治験に成功するなど、近年の再生医療界隈は明るい話題に事欠きません。本記事をご覧のあなたも、さぞかし再生医療に強い興味をお持ちのことでしょう。

そこで本記事では、すでに医療現場で導入されている「表皮水疱症」の再生医療について解説します。何かしら皮膚を扱う仕事に携わっている方はぜひ、これから解説する内容を予備知識の1つとして覚えていってください。

表皮水疱症=皮膚に刺激が加わるたびに水疱が生じる難病

表皮水疱症治る

表皮水疱症とは、皮膚に水疱が生じやすくなる先天性疾患です。この病気の患者は肌を軽くをこすったり、身体をどこかにぶつけたりといった日常的な刺激を受けるだけで、すぐさま皮膚に水疱や潰瘍が生じてしまいます。

難病指定により、医療費の負担はある程度軽減されたものの、日常生活に大きな支障をきたすことは変わりありません。また、再生医療が確立される以前は根本的な治療法がなく、半永久的に病気と付き合っていかなければならない状態でした。

表皮水疱症は遺伝子の異常によって生まれながらに発症する

表皮水疱症治る

人間の皮膚は「表皮」と「真皮」から成り立っており、この2層をタンパク質が接着することによって皮膚の構造は維持されています。ここでいうタンパク質は「接着構造分子」とも呼ばれ、ケラチンやコラーゲンなどが主な成分です。

ところが、およそ10~20万人に一人の割合で、これらの構造分子が生まれつき少ない子どもが生まれてきます。その理由は、タンパク質を設計するための遺伝子に異常が出たからに他なりません。

表皮水疱症の種類

表皮水疱症治る

表皮と真皮をつなぐ接着構造は、上から順に「基底膜」「ヘミデスモソーム」「係留線維」となっており、各エリアで構造分子の種類が異なります。このうちどのエリアで分子数が不足しているか、というのが表皮水疱症を診断するうえでの主な基準です。

単純型

単純型表皮水疱症の原因は、表皮組織の最下層に存在する基底膜の異常です。このエリアに含まれる「ケラチン5」や「プレクチン」といった構造分子は、基底膜の形状を保ち、下層のヘミデスモソームとピッタリ結合させるために存在します。

これらの構造分子が不足すると、皮膚の剥離や水ぶくれが生じやすくなります。また、度重なる症状によって皮膚の角質が硬化し、運動機能に支障をきたすケースも少なくありません。ただし、命に係わるほどの重篤な症状が出ることは極めて稀です。

なお、単純型に罹患するのは、表皮水疱症患者の3~4割といわれています。

接合部型

接合部型表皮水疱症の原因は、基底膜の下層に位置するヘミデスモソームの異常です。このエリアに含まれる「ラミニン332」や「17型コラーゲン」は、細胞同士の結合を維持するうえで絶対に欠かせません。

これらの構造分子が不足すると、皮膚のみならず歯や爪にも異常が生じます。ここまでくると、運動がどうこう以前に、食事などの基本的な生活すらも難しくなるでしょう。特にラミニンが全く生成されない場合、水疱や肉芽腫の破裂によって全身の皮膚が常にめくれているような状態になるため、大抵は乳児のうちに感染症などで死亡します。

ただし、接合部型に罹患するのは、表皮水疱症患者の1割前後とそれほど多くありません。

栄養障害型

栄養障害型表皮水疱症の原因は、基底膜と真皮の間に位置する係留線維の異常です。このエリアの主成分である「7型コラーゲン」には、船の碇のように表皮と真皮を直接つなぐ役割があります。

ごく一部の重症化ケースを除けば、症状自体は単純型とそう変わりません。ただし、水疱の生じる位置が深い分、単純型よりも傷跡が残りやすくなっています。また、免疫維持に必要な成分が真皮から届かない関係上、皮膚ガンなどの合併症にも注意が必要です。

なお現状、表皮水疱症患者の5割以上が、この栄養障害型に罹患しています。

キンドラー症候群

キンドラー症候群は、表皮水疱症の中でも極めて珍しい症例で、主に基底細胞内の様々な部位に水疱をもたらします。基底膜よりも浅いエリアに症状が現れるぶん、皮膚が光や熱に対して過敏になりやすいのが主な特徴です。

とはいえ他の3タイプに比べると、キンドラー症候群の症状はかなり軽い部類といえるでしょう。

表皮水疱症の主な対症療法

表皮水疱症治る

ここでは再生医療が普及する以前より、表皮水疱症の治療法として採用されていた対症療法の一例を紹介します。

局所療法

局所療法では皮膚に水疱・剥がれが生じるたび、洗浄や薬剤塗布、ガーゼによる保護を行います。また、水疱の場合は事前に小さな穴を開け、破裂させないように中身だけを排出する処理も行われます。

また薬剤に関しては、同じものばかり使っていると患部に耐性菌が出現するため、ある程度のスパンで製品を変えなければいけません。これら全ての処理を水疱1個1個に施す必要があると考えれば、どれほど気の遠くなる治療方法かは想像に難くないでしょう。

全身療法

全身療法は主に栄養障害型表皮水疱症で、かつ口腔や食道の粘膜に異常が生じている場合に採用される治療法です。具体的には栄養剤を経口摂取するか、あるいは点滴や経鼻カテーテルを用いて栄養を体内に直接補給します。

他には全身の炎症・かゆみに対し、ステロイドや抗ヒスタミン剤の投与によって鎮静を促すのも全身療法の一種です。もちろん、栄養剤にしても鎮静剤にしても、水疱そのものの根治につながることはほぼありません。

合併症治療

接合部型をはじめとした重症タイプの表皮水疱症は、皮膚ガンや消化器系の狭窄といった様々な合併症をもたらします。こうなると皮膚科だけでは手に負えず、様々な医科の専門医と連携して集中的に治療を行わなければいけません。

そして目先の異常を治しても、表皮水疱症そのものを根治できない限りは、いずれまた別の合併症が身体のどこかに表れます。それでも再生医療が普及する以前は、終わりのない治療に高額な医療費を払い続ける他ありませんでした。

表皮水疱症は「自家培養表皮」による再生医療が可能

表皮水疱症治る

自家培養表皮とは、患者自身の体細胞を培養・増殖することによって作られる人工皮膚です。再生医療の中でもかなり古くから研究されてきた分野の1つであり、国内初の治験事例は2003年にまでさかのぼります。

それまでも、細胞そのものを培養して移植する取り組みは、白血病治療などですでに採用されていました。しかし表皮のような体組織を丸ごと再生するとなると、細胞を培養しただけではどうにもなりません。

人の体組織というのは、いくつもの細胞が「マトリックス」と呼ばれる骨子に収まり、それが何重にも連なることで形成されています。このマトリックスに関する研究が実用可能なレベルに達したからこそ、表皮水疱症は根治可能な病気となったのです。

自家培養表皮を作製・移植する手順

表皮水疱症治る

ここでは、自家培養表皮を用いた再生医療について、細胞の採取から表皮移植までの一連の流れを紹介します。

患者の細胞を採取

まずは患者の体から、IPS細胞やES細胞といった「多能性幹細胞」を採取します。その後、院内に細胞処理室などがあれば直ちに次の工程へ移れますが、それほどの規模を持つ病院は全国的にそう多くありません。そのため、採取した細胞は専門業者のもとに送られるのが一般的です。

採取した細胞を培養し、表皮を作製

患者から採取した細胞は、培養液で満たした容器に入れられます。その後はただ細胞の増殖を待つだけでなく、コラーゲンやキトサンといった素材から人工マトリックスを形成する作業も必要です。

他にも、増殖した細胞に生理反応をもたらすため、サイトカインと呼ばれる低分子タンパク質を加える作業も行われます。

完成した表皮を患者の身体に移植

完成した自家培養表皮が病院に返送されたら、後は外科手術によってそれを患者の身体に移植すれば、治療自体はそこで終了です。あとは移植した皮膚が身体に定着し、上皮の状態が正常に戻るのを待ちましょう。

自家培養表皮のさらなる普及に向けた課題

表皮水疱症治る

自家培養表皮は表皮水疱症のような難病を根治できるうえ、臓器移植などとちがって拒絶反応の類もありません。

そのため、一見何のデメリットもない治療法に思われますが、実際には以下の2点が受療の決断を難しくしています。

健康保険が適用されない

2023年現在、自家培養表皮を用いた皮膚の再生医療には、健康保険が適用されていません。そもそも現状、再生医療の中で保険診療の対象となっているのは、自家培養軟骨や脊髄由来幹細胞といったごく一部の治療法に限られます。

そのため、トータルの治療費が数百万円クラスに達することも決して珍しくありません。表皮水疱症に苦しむ多くの患者を救うには、自家培養表皮を1日も早く保険診療対象に加えることが求められます。

細胞採取~表皮移植までの待ち期間が長い

患者の細胞を採取してから、完成した自己培養表皮を移植するまでには、およそ3~4週間程度かかります。そのため、生命の危機に瀕するような容体の場合でも、当面は薬物などによる保存療法で耐えるしかありません。

また、移植した自己培養表皮が周辺組織に完全に定着するまで、さらに半年~1年ほどかかります。こうした所要期間の問題を解決するには、細胞の培養効率を向上させることに加え、より人体に定着しやすいマトリックスを開発することも重要です。

まとめ

表皮水疱症治る

表皮水疱症は、表皮と真皮をつなぐ接着構造分子の不足によって、皮膚に水疱や剥離が生じやすくなる先天性疾患です。ひと昔前は、水疱や炎症を1つ1つ治すような対症療法しかありませんでした。しかし今では、自家培養表皮を用いた再生医療のおかげで根治可能な病気となっています。

将来何らかの大病を患ったときのためにも、自家培養表皮のような再生医療の情報は、ぜひ今のうちからこまめにチェックしてみてください。

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