再生医療にかかる費用の目安はどのくらい?具体的な治療の種類と治療ごとのお金の目安について解説
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
再生医療は、これまで根本的な治療が難しかった病気に、明るい希望をもたらせる新しい医療です。最近では美容医療でも肌の再生医療が注目を浴びており、ヒアルロン酸注入などの一時的な美容法とは違い、数年効果が持続すると期待されています。しかし、再生医療はほとんど保険が適用されないため、全額負担となります。そこで今回は、再生医療にかかる費用の目安や具体的な治療の種類をくわしくご紹介していきます。
再生医療とは?
再生医療とは、人が持っている自己修復能力を上手に引き出し、病気やケガなどで失われた身体の機能を回復させたり、形状を修復したりすることをいいます。
薬物などで改善する治療ではなく、自分の細胞や血液、組織などを加工したものを活用する治療や、どんな組織にもなれる多能性幹細胞を利用した治療のことです。
再生医療は3種類
現在行われている再生医療は3種類。
人の生命と健康に与える影響によって分類されています。
第1種再生医療等
iPS細胞やES細胞などの遺伝子操作をおこなった幹細胞を使った再生医療のことです。
一番リスクが高いといわれており、現在は研究段階のため、大学や国の医療機関に限り臨床研究が行われています。
第2種再生医療等
第2種再生医療等は幹細胞を培養して治療する方法です。体制幹細胞を応用した再生医療が進んでおり、もともと人間の身体にある細胞を活用するため、リスクが少ないといわれています。
他にも、造血幹細胞や神経幹細胞などがありますが、決まった細胞にしか変化しないというデメリットがあります。
第3種再生医療等
幹細胞を培養しない、幹細胞以外のものを利用する治療のことです。
大きな操作をしないため、リスクが少ない治療法といえます。
再生医療ではどのような治療が行われるの?
再生医療では実際にどのような治療が行われるのでしょうか。
治療した事例を具体的に見ていきましょう。
第1種再生医療等では滲出型加齢黄斑変性症の治療
滲出型加齢黄斑変性症は、網膜の中心にある黄斑部の働きが低下し、ゆがんで見えたり視力が落ちたりと、目が見えにくくなる難病です。今までの治療では薬剤やレーザーでの治療を行い、進行を防止し遅らせることしかできませんでした。
再生医療では、iPS細胞から作られた網膜色素上皮細胞を移植する臨床研究が行われています。
iPS細胞は、目の病気やがん、心不全などで移植手術が行われており、近年では角膜の病気で視力を失った人たちへ移植を行い、大きな成果が得られ、2~3年後の実用化を目指しているという報告もあります。
第2種再生医療等では変形性膝関節症の治療
変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨がすり減り、痛みや炎症を起こす病気です。加齢や肥満、使いすぎなどの理由が考えられ、日本では約2,400万人が発症しているといわれています。
再生医療では、膝関節に自分の幹細胞を培養したものを注入し、痛みを和らげ、膝軟骨を修復する治療が行われています。
第3種再生医療等ではPRPによる美肌治療
PRPは、自分の血液に含まれる血小板を利用して、シワや目の下のクマなどの気になる部分に注入し、改善する方法です。
美容整形のように、すぐ効果を実感できるものではありませんが、肌の内部から成長因子に働きかけることで、徐々に変化が表れます。
PRPは再生医療の法律が整備される前からあるもので、エイジングケアとしても注目されており、一番知名度の高く、受けたことがある人が多い再生医療といえるでしょう。
再生医療にかかる費用はどのくらい?
第1種再生医療等で行われた滲出型加齢黄斑変性症の治療は、患者一人につき1億円かかったと報道されていますが、患者が負担するのではなく、研究費や製薬会社が負担しています。
第2種再生医療等の変形性膝関節症の治療は、幹細胞の投与だけで100万以上かかるといわれているため、検査や幹細胞の培養する費用を考えるとさらに高額となります。
第3種再生医療等のPRPによる治療は、病院によって異なりますが、ほうれい線や目の下のクマなど一部分につき30万円前後かかることが多いようです。他の美容法とはくらべものにならないくらい高額ですね。
高額な再生医療が続けられている理由は?
再生医療は、安全性や効果が立証されてはいるものの、十分なデータがそろっていない段階です。
しかし、根本的な治療法が見つからない人や臓器移植を待っている人、新しい治療方法に期待している人がたくさんいます。
再生医療は大きな可能性を秘めており、一定の結果が期待できるようになれば、さまざまな人々の希望となり、将来的に保険適用もされる可能性があるため、続けられているのです。
保険適用された再生医療「自家培養表皮」「自家培養軟骨移植術」
再生医療と聞くと、高額なイメージが強く、治療を諦めてしまう人もいますが、一部保険適用が認められているものもあります。
自家培養表皮とは?
自家培養表皮は、皮膚が広範囲にわたって失われ、皮膚の細胞増殖による再生が間に合わないときに、正常な皮膚から細胞を取り出して人工的に培養し、シート状のものを受傷部位に逸欲する治療のことです。
現在保険が適用されるのは、重症熱傷(やけど)、先天性巨大色素性母斑、表皮水疱症(接合部型と栄養障害型のみ)の治療だけとなっています。
自家培養軟骨移植術とは?
自家培養軟骨移植術は、健常な軟骨細胞を培養し軟骨組織を治療する方法です。2013年4月から保険が適用されており、高額医療費制度の対象にもなるため、年齢や年収、入院期間によって変動しますが、6~25万円程度で治療が受けられます。
軟骨組織は、ケガで損傷してしまうと自然には治らない組織であり、これまで根本的な治療がありませんでした。
また、2019年からは、患者さんの骨膜の使用ではなく人工コラーゲン膜の使用が国から認められたため、骨膜採取が不要となり、患者さんの負担も軽減しています。
保険が適用されないものもある
保険適用される治療といっても一部対象外のものがあります。
手術料や検査料、麻酔料・入院料・注射料などは、病院によってかかる費用は違いますが、保険の対象になります。
食事代や個室料、追加サービス料などは適用されないので注意しましょう。
再生医療のメリット
再生医療には、いままでの治療にはない、さまざまなメリットがあります。
どのようなメリットがあるのかチェックしていきましょう。
副作用が少ない
人間の身体は、異物が入り込むと排除しようと拒絶反応が起こります。
しかし、再生医療は、自分の細胞や血液を使うので、拒絶反応が起こりにくいといわれています。
入院しなくてもいい
日帰りの手術も増えてきていますが、基本的には手術を行うと、入院の可能性が高まります。
変形性膝関節症の治療である、人工膝関節置換術の場合は、順調に回復しても2~3週間の入院が必要です。
再生医療は注射だけで済んでしまうことが多いため、多くの治療において入院の必要がありません。
もちろん無理は禁物ですが、仕事を休みたくない、周囲に気づかれないように治療をしたいという場合にも助かります。
再生医療のデメリット
いいことが多い再生医療ですが、デメリットもあります。
デメリットも理解したうえで、治療を検討しましょう。
効果に個人差がある
他の治療法でも同じことがいえますが、効果は個人差があります。
再生医療だからといって、必ず完治するわけではないのです。
全く効果がないというわけではありませんが、膝関節の治療の場合、PRP治療では約8割の方に効果がありますが、肥満や重症化している方は、効果が表れにくいといわれています。
費用が高額
再生医療は、保険適用が認められるものが限られているため、高額な費用がかかることが。
ただし、今後臨床データがそろってくると、保険適用が認められる可能性もあります。
まとめ
再生医療の治療はとても高額です。保険適用が認められている再生医療もありますが、一部となっています。
しかし、再生医療は副作用のリスクも少なく、根本的な治療方法がない病を抱えている人たちにとって、希望の光ともいえるでしょう。
また、病気ではなくても、いつまでも若々しい肌を保っていたいという人は、肌の再生医療を考える人も多いのではないでしょうか。
今はまだ、安全性や効果が立証されてはいるものの、十分なデータがそろっていない段階の再生医療ですが、これから研究が進めば保険適用が認められる治療も増えるかもしれませんね。