皮膚の再生医療とはどんな治療ができるの?自家培養表皮とは?その仕組みや効果について徹底解説!
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
年齢を重ねていく中で、皮膚の衰えによって老化を感じやすく、見た目にも加齢を感じさせるなど皮膚はとても重要です。見た目にも影響を与える皮膚に関して、近年皮膚再生に注目が集まっています。
皮膚再生で注目される自家培養表皮など、皮膚の再生医療の仕組みや効果についてご紹介します。
皮膚が持つ役割とは
そもそも皮膚はどのような役割を持っているのか、最初に皮膚の役割についてご紹介します。
身体を保護するバリア的な役割
皮膚は外からの攻撃・刺激から守る、いわゆるバリアのような役割を持っています。紫外線や微生物、物理的な圧力などから守ることで体内の内臓などに大きなダメージが与えられないようにします。汗などの分泌も身体を守るという意味合いでは必要なことで、乾燥を防ぐほか、細菌を繁殖させないようにします。
また体温調節としても皮膚は大事な働きをしており、汗を出して体温を下げようとします。汗を出すことで、老廃物を外に出させる効果もあるなど、皮膚表面だけで活躍するわけではありません。
知覚作用
私たちが日常生活を送る中で、何かに触って温度を感じることがありますが、これらの感覚をつかむのには皮膚の役割が欠かせません。知覚作用があることで私たちは暮らすことができます。もしも知覚作用がなかった場合、痛覚もないため、重大な病気に一切気づくことなく、あっさりと命が尽きることも十分に考えられます。
皮膚再生医療とは何か
皮膚再生医療とはどういうものなのか、詳細をまとめました。
自分の皮膚を再生させて活用する医療
皮膚再生医療は、自分の皮膚を再生させたものを活用する医療を指します。皮膚に何かしらの病気などが発生し、皮膚が失われた場合、別の部位から皮膚を移植することが行われてきました。これは他の人の皮膚を移植した場合に異物と判断されやすいからです。
一方で皮膚は1度失われると復活は難しく、移植を何回も行わざるを得ない状況もありました。皮膚再生医療では、培養シートなどを使って皮膚を常に再生できるため、拒絶の可能性が非常に少なく、別の部位からの移植を必要としなくなることが大きいです。
どんな場面で皮膚再生医療は必要なのか
皮膚はとても万能であり、皮膚を内蔵と捉えると実は人間の身体でもっとも割合を占める内臓と言えます。そんな皮膚は本来人間自らに宿る再生能力で事足ります。
ところが、その再生能力が不足し、重大な影響をもたらすことも。どんな時に影響が出てしまうのか、ご紹介します。
重度のヤケドを負ったとき
軽度のヤケドを負った場合、皮膚を移植する際に別の部位にあった皮膚を移植することで治療することがあります。しかし、重度のヤケドを負った場合、皮膚を移植するほど皮膚が残されていないことも。この場合、人工の皮膚を使って急場をしのぎつつも、残された皮膚を培養して活用することで治療を行うことが可能です。
色素性母斑
色素性母斑はいわゆる「ホクロ」を指します。よく目を凝らさないと見えないホクロもあれば、少し離れていても明らかにわかるホクロもあります。中でも、先天性巨大色素性母斑と呼ばれるあまりにも大きいホクロだった場合は、大きく切除しないといけないため、その際に皮膚の移植を行います。また色素性母斑の中には皮膚がんにつながるものもあり、早急に切除しないといけません。そのような場面で皮膚再生医療の活用が求められます。
表皮水疱症
表皮水疱症は生まれつき皮膚が弱いことでちょっとした刺激で潰瘍などをもたらす難病です。患者数は少なく、珍しい病気ですが、2019年から自家培養表皮を使った治療が保険適用となっています。
現状ではこれら3つの症状において保険適用がなされ、それ以外は自費治療となります。アンチエイジングなど肌再生医療として用いられるものはすべて自費であり、相応の費用がかかるようになっています。
皮膚再生に欠かせない自家培養表皮とは
ここまでで何回か出てきた自家培養表皮ですが、いったいどのようなものなのか、ご紹介します。
皮膚を採取しシートにする
1975年、アメリカで表皮細胞を培養する方法が活用され、その方法で培養された皮膚を使って大やけどを負った2人の幼児の命を救う出来事があってから、自家培養表皮の存在がクローズアップされます。
皮膚再生医療で用いられるのは自らの皮膚と特殊な細胞です。皮膚から表皮細胞を取り出すと、「3T3-J2細胞」と呼ばれる特殊な細胞を合わせて培養します。すると、培養が進み、それをシート化させて移植、これが自家培養表皮です。日本では2007年に初めて用いられるなど、その歴史はアメリカと比べると浅いです。
自家培養表皮はオーダーメイド
自家培養表皮は病院で作れるようなものではなく、自家培養表皮を作る会社がオーダーメイドで作ります。皮膚の提供を受けてから製造が始まるため、納品されるまでにそれなりに時間がかかります。だいたい1カ月前後で培養が完了する形です。そのため、一分一秒を争うような場面で自家培養表皮を用いる際には、人工の皮膚を使って時間を稼ぐ必要があるなど、連携がとても大切になります。
皮膚再生にはどのくらいの時間がかかるのか
自家培養表皮など肌の皮膚再生を行う場合、どのくらいの時間がかかるものなのか、解説します。
自家培養表皮だと元の状態に戻るのに数年かかる
自家培養表皮を使った場合、1週間もあればしっかりとくっつき、段々と角質層などが作られていきます。周囲になじみ始めるのがだいたい1カ月から2カ月程度です。1年もすれば本来の皮膚の姿になりつつあり、数年経過すれば元のような状態に戻ると言われています。見た目には皮膚としての機能を果たせる一方で、皮膚本来の機能を取り戻すにはまだ時間がかかります。
自家培養表皮以外の治療だとやや短くなる
肌再生医療として「PRP皮膚再生療法」があります。PRP皮膚再生療法は血液中の血小板に含まれる成分を使い、再生能力を高めていくやり方です。用いるのは自らの血液なので、汎用性が高いのが特徴的です。血小板を多く取り出して気になるところに注入するだけで、およそ半年ほど効果が持続します。
この半年間で幹細胞治療など別の治療を行うことでより効果を高め、長い期間にわたって効果を持続させることができます。自家培養表皮とは全く異なるジャンルですが、失敗・リスクが少ないという点ではどちらも同じです。アンチエイジングを行いたい場合は特にPRP皮膚再生療法などがいいでしょう。
皮膚再生はいくらかかるのか
皮膚再生を実際に行うにはおおよそいくらぐらいかかるものなのか、自家培養表皮やPRP皮膚再生療法のケースなどをご紹介します。
自家培養表皮の場合
自家培養表皮は、自家培養表皮の作成費用が1枚当たり10万円程度で、病院で移植を受ける場合は入院診療費や表皮採取料などがかかり、最終的に100万円以上かかり、作成した枚数によっては200万円を超えることもあります。そのため、身体全体で自家培養表皮を使った場合、その治療代は相当なものです。
また民間においてニキビ跡など傷跡に自家培養表皮を用いるケースがありますが、この場合も100万円を超えることが多いです。ただ移植すれば何度も治療を繰り返す心配が少ない分、余計に費用がかからないという点も挙げられます。
PRP皮膚再生療法や幹細胞治療の場合
PRP皮膚再生療法では、場所によって1回あたりの費用が異なります。例えば顔全体に行う場合は1回あたり10数万円ほどかかり、狭い部位になると1回あたりで10万円を切るような値段になっていきます。
幹細胞治療の場合は細胞を抽出して培養する時点でお金がかかり、移植となると2回程度行っただけで100万円をはるかに超える費用がかかります。それだけ効果に期待が持てるわけですが、それ相応の費用が掛かることは間違いありません。ただ自家培養表皮と違い、何回か追加で行う必要も出てくるため、最終的にかかる費用が大きく変わることも考えられます。
皮膚再生が与えるアンチエイジングの効果とは
皮膚の再生医療がもたらす効果として、アンチエイジングの場合では自然に治療を行える点があります。例えば、物理的な治療、メスを入れたりシリコンなどを注入したりするのは、周囲が治療後の様子を見て明らかな違和感を与えるほか、異物が入ることで見た目に美しくない仕上がりになってしまうことがあるでしょう。その点、自家培養表皮やPRP皮膚再生療法などは、見た目が自然になりやすいのが大きな特徴です。
誰でも画一的に効果が出るというより、皮膚再生医療の場合は個人差が出やすいため、仕上がりに不満を感じる人も出てくる一方、そもそも急に良くなるものではなく、じわじわと回復するものなので一定の時間をかけなければなりません。
その間にアンチエイジングとしてできることを実践し、クリームを活用してお肌の手入れを入念に行うなど、時間を稼ぎつつ、その過程で良くなっていけばより自然度が増します。費用こそかかりますが、ヒアルロン酸注入などをすれば何回も入れなければならないことを考えれば、コスパのいいアンチエイジングの手法とも言えます。
まとめ
皮膚の再生医療はどんどん進化が進んでおり、アメリカでしかできなかったことが日本でも行えるようになり、その研究はまだまだ進んでいます。自家培養表皮によって命が救われるケースも出てきており、これからより注目が集まる分野であることは間違いありません。
PRP皮膚再生療法など民間で行える再生医療もこれから活況を呈するようになり、皮膚の再生医療の分野の盛り上がりに注目が集まります。