【2023年最新】再生医療の保険適用はいつから?保険診療の治療と自由診療(適用外)の治療を解説します。
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
再生医療は、これまで有効な治療法がなかった病気の治療法として大きく期待されています。日本では、平成26年9月に、世界初のiPS細胞を用いた移植手術が行われ、着実な成果を上げています。しかし、最新の医療であるため、高額の治療費がかかる心配があります。そこで今回は、再生医療の保険適用と保険診療から自由診療について解説します。
再生医療とは
再生医療とは、病気やケガによって機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞や人工的な材料を積極的に利用して、損なわれた機能の再生をはかる治療法です。これまで治療法のなかった難しい病気やケガに対して、新しい医療をもたらす可能性があり、大きく期待されています。
日本では、世界に先駆けて再生医療を推進する法律が整備されたほか、薬や医療機器の安全基準を定める法律を改正するなど、国を挙げて再生医療を推進するという体制を構築しており、再生医療の技術を用いた難病の原因解明や薬の開発もすすめられています。
日本の医療費負担の仕組み(保険診療と自由診療)
日本では、健康保険料を納めていれば、健康保険を使って低負担で医療を受けることができる『国民皆保険制度』が採られています。現行の健康保険制度では、会社などに勤めている方は社会保険、その他の方は国民健康保険に加入し、健康保険料を納める仕組みです。健康保険証は、健康保険に加入していることを示す証です。
健康保険に加入することで、医療機関で治療を受ける際の費用は全額を負担する必要はなく、あらかじめ決められた負担金額さえ支払えば治療を受けることができます。
一方で健康保険に加入していても全ての種類の治療を低負担で受けられるわけではありません。健康保険の適用外となる自由診療もあり、自由診療で治療を受ける場合の費用は自己負担となります。
保険診療と自由診療の特徴は以下のようになります。
保険診療の治療
保険診療とは、健康保険に加入している方は、厚生労働大臣の指定を受けている保険医療機関であれば、日本全国どの保険医療機関あっても同じ内容の診療を、同じ金額で受けることができる仕組みです。
保険診療の場合、医療費は全国共通の基準(診療報酬)が設定されており、年齢等によって自己負担の金額は0~3割となっています。
自由診療(保険適用外)の治療
自由診療とは、厚生労働省が承認していない治療や薬を使う診療で、健康保険の適用外となるため、治療費は全て自己負担(10割負担)となります。
治療費負担の大きい自由診療ですが、治療の選択肢が増え、海外では承認済みだけど日本では未承認といった最先端治療や、自分の体質や病気にあった治療を制限なく受けられるというメリットがあります。
再生医療に保険適用はある?
現在、多くの再生医療は自由診療となっています。再生医療への健康保険の適用状況や、保険診療との併用、自由診療の場合の負担軽減方法は以下のようになっています。
再生医療の保険適用状況
2022年6月時点で、厚生労働省の承認を得て、健康保険が適用される再生医療は16種類に留まっています。ただし、多くの再生医療が国による有効性や安全性などの確認中の段階にあるため、今後は保険適用の範囲が広がっていく見込みです。
自由診療と保険診療の併用
自由診療を受けた場合、医療費の全額が自己負担となりますが、安全性や有効性など一定の条件を満たして「先進医療」と認められた場合は、健康保険との併用が認められています。この場合、再生医療の部分は自由診療として自己負担になりますが、それ以外の部分で保険適用を受けることができます。
自由診療で支払った医療費は医療費控除の対象になる
自由診療の医療費は一般的に高額となります。そこで、一定の条件を満たした場合、支払った医療費の一部を所得から控除する医療費控除というものがあります。
医療費控除は、支払った医療費の額が所得の5%を超えた場合、最大10万円の所得控除を受けることができます。支払った医療費には自由診療も含まれるため、自由診療で再生医療を受けた場合は医療費控除が受けられる可能性があります。
医療費控除を受けるには、医療費を支払ったことを証明する資料を添付して確定申告をする必要があります。
変形性膝関節症で見る再生医療
再生医療について、日本人の多くの方が罹るといわれている「変形性膝関節症」を例に挙げてみていきましょう。
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減ることで、膝の形が変形し、痛みや腫れが生じる状態です。変形性膝関節症は、重症になると、膝関節の動きに障害を来たします。
厚生労働省によると、日本国内での変形性膝関節症の患者数は、自覚症状を有する患者が約1000万人、潜在的な患者は約3000万人もいるといわれています
発病率は高齢になるほど上がるため、国内の高齢化社会の流れの中で、患者の数は今後もさらに増加することが予想されています。また、50歳以降の男女比では女性の方が男性より1.5倍~2倍多いことがわかっています。
これまでの変形性膝関節症の治療法
再生医療を用いない、従来の変形膝関節症には以下の治療法が一般的です。
・痛みに対する対症療法(痛み止めの内服、ヒアルロン酸の関節内注入など)
・残された膝関節の機能を最大限活用させるための手術
・人工関節に置き換える手術
これらの治療には健康保険が適用されます。
再生医療による変形性膝関節症の治療
一方で、変形性膝関節症のための再生医療は進んでおり、以下のような治療法があります。
・「自家軟骨培養移植」…患者自身の軟骨組織の一部を取り出して体外で培養し、軟骨が欠損している部分に移植して修復を期待する治療法
・「脂肪由来幹細胞移植」…自身の脂肪組織を採取し、その中の体性幹細胞だけを培養して関節内に注射します。幹細胞に含まれる炎症を抑える効果が期待されるタンパク質などにより痛みの改善を目指す治療法
・「PRP療法」…患者さん自身の血液を採取し、遠心分離機にかけて、血液中にある血小板を含むPRPを取り出し、関節内に注射で注入します。血小板が持っている成長因子により、靭帯損傷や筋肉断裂のようなケガの治りを早める力が期待できる
・「APS療法」…患者さん自身の血液中から取り出したPRPに、さらに脱水・濃縮という工程を加えて、炎症を抑えるタンパク質や軟骨の健康を守る成長因子を高濃度に抽出したAPSを関節内に注射で注入する治療法
変形性膝関節症の再生医療への保険適用
続いて、変形性膝関節症の再生医療に健康保険が適用されるのかをみてみましょう。整形外科で受けられる変形性膝関節症の再生医療は、保険適用になっているものと、自由診療(適用外)になるものがあります。
保険適用される変形性膝関節症の再生医療
保険適用される再生医療は、患者本人の軟骨組織の一部を取り出して体外で培養し、軟骨が欠損している部分に移植する「自家軟骨培養移植」です。「自家培養軟骨移植術」は、2013年4月から健康保険が適用されています。
ただし、現在のところ、保険適用される自家軟骨培養移植は、膝関節における外傷性軟骨欠損症か離断性骨軟骨炎に限られています。
自由診療(保険適用外)となる変形性膝関節症の再生医療
変形性膝関節症の再生医療のうち、「脂肪由来幹細胞移植」、「PRP療法」、「APS療法」については、保険適用にはなっておらず、自由診療になるため全額自己負担となります。
再生医療への保険適用の今後
再生医療が保険適用になるために必要なこと
再生医療の健康保険の適用については、厚生労働大臣の承認が必要となります。そして、厚生労働大臣は、保険適用の承認プロセスのなかで、『中央社会保険医療協議会』に諮問することになっています。その、中央社会保険医療協議会は、平成26年11月5日の総会で、再生医療について「条件・期限付き承認」の段階でも保険適用することを了承しました。そして、再生医療の医薬品、医療機器のどちらかで保険適用すべきかを個別製品の特性に応じて判断した上で、検討、審議することとしています。
再生医療の保険適用の今後
再生医療の今後の保険適用については、再生医療の知見の蓄積を続け、引き続き中央社会保険医療協議会総会で検討することになっています。この検討が進むことで、保険適用の承認を受けられる再生医療が増えていくことに期待されています。
再生医療向けの民間保険は?
がん治療での自由診療を対象とした医療保険は比較的多く販売されていますが、再生医療を対象とした民間保険は今のところ、特定の傷病を対象にした少額短期保険しかない販売されていません。
まとめ
いかがだったでしょうか?再生医療は、これまで治療法のなかった病気やケガの新しい治療法として成果を挙げています。一方で、現時点では再生医療の多くは保険適用外であり、高額な治療費負担が課題となっています。今後、多くの方が安心して再生医療を受けられるよう、さらなる医療の進歩や制度の整備に期待されます。