膝が痛くて正座ができない!その原因は変形性膝関節症?治療方法やストレッチ方法について解説
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
「膝が痛くて正座ができない」「階段の上り下りがつらい」「歩くのがおっくう…」と、膝の痛みで悩んでいる中高年の方が多くいます。40代以上で膝の痛みで悩んでいる方は全国で800万人、そのうちの半数以上が「変形性膝関節症」です。
変形性膝関節症は膝の関節の軟骨がすり減り、歩行や動作時に膝の痛みが現れる病気です。放置すると日常生活に支障が出るため、疑いのある方は早めに治療を受け、再発を予防しましょう。
今回は変形性膝関節症の治療方法について解説します。
膝痛とその原因となる病気
膝痛(ひざつう)とは、膝関節周辺が痛くなる病気です。膝の痛みは年代によって異なり、10代は成長期の痛み(スポーツによる成長痛)、20~30代は半月板損傷や靱帯損傷などのスポーツによる外傷が多くみられます。
40代以降に多く見られるのは変形性膝関節症と関節性リウマチで、いずれも早期発見・早期治療すれば治癒が早まったり、進行を遅らせることができます。
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症とは、膝の関節のクッションである軟骨の質が低下し、少しずつすり減って、歩行時に膝の痛みが現れる病気です。40代以上で膝の痛みに悩んでいる方は全国で800万人いますが、その大部分が変形性膝関節症です。男女比では1:4で女性に多く見られ、高齢になるほど罹患率が高くなります。
軟骨がすり減った分、膝関節の骨と骨のすき間が狭くなり、骨にとげのような突起物ができたり、骨が変形したりします。また、膝に水がたまる状態の方もいます。
変形性膝関節症の症状
変形性膝関節症は関節の軟骨がすり減って、関節内に炎症が起きて痛みや腫れなどが生じる病気です。病気の進行度合いは人によって異なり、初期には立ち上がりや歩行による痛みが生じますが、進行すると階段の上り下りや正座をするのが難しくなり、日常生活に支障をきたす場合があります。
ここで、変形性膝関節症の症状を「初期」「中期」「末期」ごとに解説します。
初期症状
初期症状では膝のこわばりやちょっとした動作でも膝が重くなったり、はっきりとわからない痛みが時々感じるようになります。
しかし、休むと自然と痛みなどは治まるため、あまり気にならない方も多く、進行に気づかないことがあります。
中期症状
初期症状から症状が進むと、あらゆる動作で痛みが生じます。初期症状では休んでいたら治っていた膝の痛みが消えにくくなり、正座やしゃがみ込む動作、階段の上り下りなど、痛みがつらくて歩くこと自体も困難になります。
関節内部の炎症が進み、膝の腫れや変形などが起こります。膝の痛みだけでなく、膝の変形などが起こると動作が不自由になってきます。
末期症状
中期症状がさらに進行し、軟骨がほとんどなくなり、骨同士が直接くっつくようになります。それと同時に症状がすべて悪化し、歩く・座る・しゃがむことが困難になり、日常生活にも支障をきたします。
また、膝関節の変形が目立ってO脚にもなります。
変形性膝関節症の原因
変形性膝関節症の原因はさまざまな要因が関係します。
- 加齢:加齢に伴い、関節を支えている筋力が低下し、膝の動きが不安定になって負担が増加します。
- 女性:男女別では女性が多く、年齢とともに増加します。まれに30代以下の女性も発症することがあります。
- 肥満:肥満の方は体重を支える膝の負担が大きくなるため、膝の痛みなどが生じることがあります。
- 膝への負担が大きい生活や仕事:膝への負担が大きい生活や仕事を長年やっていると、膝の痛みが生じることがあります。
- O脚などの下肢の変形:O脚やX脚は膝にかかる圧力が片側に集中するため、軟骨が傷つきやすくなります。
- 遺伝:変形性膝関節症は遺伝的要因が原因になることがあります。
- 他の病気がある場合:関節性リウマチや通風などの病気がある方も変形性膝関節症を起こすことがあります。また、骨折や外傷、感染の後遺症で発症することもあります。
変形性膝関節症は初期症状では多少痛みはあっても、休むと治ることがありますが、進行すると日常生活で支障をきたす場合がありますので、早めに整形外科の治療を受けましょう。
変形性膝関節症の治療
変形性膝関節症の疑いがある方は早期発見・早期治療が肝心となります。できれば初期症状の段階から治療を受けるようにしましょう。初期症状では大したことがないと思っても、進行によっては動作が困難になり、日常生活がままならないことがあり得ます。
まずはかかりつけの整形外科医による診察を受け、医師の指示に従って、必要に応じた治療を選択しましょう。
診断・検査
まずは問診や診察で膝の腫れや痛み、関節の状態を調べ、検査を行います。検査はレントゲン検査(X線撮影)を行います。
レントゲン検査では、膝関節の状態を観察し、軟骨の下にある骨が硬くなる、関節のすき間が狭くなる、とげ状の骨があるかどうかを調べます。また、必要に応じてMRIや血液検査、関節液の検査を行う場合があります。
変形性膝関節症の進行度分類はX線写真の所見に基づいて分類され、グレード0からグレード4まであります。進行度はグレード2以上の場合は変形性膝関節症と診断されます。進行度の度合いによってさまざまな治療法が選択されます。
薬物療法
初期・中期症状では薬物療法があります。薬物療法は「内服薬」「外用薬」「関節内注射」があります。
外用薬は塗り薬、貼り薬があり、塗り薬は使用しても目立たず、外出先でも使いやすいメリットがあります。貼り薬は貼っている間はしっかり効きやすい特徴がありますが、剥がれやすさや剥がす際の痛み、肌のかぶれなどのデメリットがあります。
変形性膝関節症の治療で使われる内服薬では「アセトアミノフェン」「NSAIDs(エヌセイズ)」「オピオイド」を使うのが一般的です。医療機関によっては漢方薬を使うところもありますので、漢方薬で治療を受けたい方は医師に相談するとよいでしょう。
関節内注射は患部である膝関節に直接注射する治療法で、「ヒアルロン酸注射」や「ステロイド注射」があります。
運動療法
リハビリでは装具療法(膝サポーター、足底板など)や物理療法(温熱療法、電気刺激療法など)がありますが、変形性膝関節症のリハビリで活用されている治療法に「運動療法」があります。
運動療法は膝関節周囲の筋力を強化し、膝関節への負担を軽減するために行われます。運動療法は膝痛の改善の効果が期待でき、ウォーキングやストレッチなどを取り入れて、運動習慣を身につけます。ただし、激しい運動は症状を悪化させる場合があるため、運動の際は医師・理学療法士の指示に従って行いましょう。
運動療法はSLR運動などが中心で、SLR運動の方法は仰向けになりながら、片方の膝を立てて、もう一方の脚をまっすぐ伸ばして、つま先を天井に向けて10cm程度上げて5秒間静止します。その後はゆっくり下ろして、反対側の脚も同様に行います。椅子に座った状態でも行えます。自宅でも簡単にできるため、仕事や家事の合間に挑戦してみましょう。
手術
薬物療法や運動療法では十分な効果が認められず、歩行の痛みなどで日常生活に支障をきたすようになった場合に手術を行うことになります。変形性膝関節症の手術は「関節鏡視下手術」「骨切り術」「人口膝関節置換術」などがあります。
いずれの手術も100%安全ではありませんので、医師の説明を十分に理解した上で受けるようにしましょう。
変形性膝関節症の予防と対策
変形性膝関節症の治療は薬物療法、運動療法、手術の選択がありますが、治療を受けたからといって100%治癒する保証はありません。
しかし、変形性膝関節症がスムーズに治療が進み、治癒への方向へ向かうには、基本的な生活習慣の改善と毎日のストレッチが重要になってきます。
ここでは、変形性膝関節症治療の際の基本的生活習慣の改善方法や予防のためのストレッチを紹介します。
バランスのとれた食事
変形性膝関節症が治る食べ物は残念ながらありません。しかし、体の調子を整えたり、膝のコンディションを整えるためには食生活は重要と言えるでしょう。
暴飲暴食を避け、カロリーオーバーにならないように、栄養のバランスのとれた食事を心がけましょう。特に骨を作るカルシウムやタンパク質、ビタミンDは不足しないよう、バランスよく補います。
肥満を改善する
膝の負担をかけやすいとされる肥満は変形性膝関節症だけでなく、さまざまな生活習慣病の原因となります。糖分や脂分を控え、たんぱく質やミネラル、ビタミンをバランスよく摂りましょう。
また、毎日の運動も肥満を改善する方法の一つで、ウォーキングやストレッチなどで運動する習慣をつけましょう。ただし、膝の痛みがある場合は中止し、医師に相談してください。
膝を冷やさない
膝が冷えると血流が低下し、筋肉の動きが悪くなったり、痛みの原因物質が排出されにくくなって痛みを感じやすくなります。日頃から膝を露出しない服装にする、膝掛けを持ち歩く、サポーターを使用する、毎日入浴するなどを心掛けて、膝を冷やさないようにしましょう。
ただし、痛みがある場合は痛む部分を冷やすようにしてください。
膝に負担をかからない生活様式
膝の痛みがつらい方は、洋式の生活スタイルを変えることをおすすめします。床に座る、布団で寝る、和式トイレを使うと言った和式の生活スタイルは膝への負担が大きくなります。
椅子やベッドを使うことで膝を深く曲げる必要がなくなるため、膝への負担が軽減できます。
ストレッチ
毎日運動をするのも変形性膝関節症の予防と改善につながります。ウォーキングや筋トレなど、膝の負担がかからない運動を心掛けましょう。
自宅でできるストレッチも膝の痛みを予防する一つで、ここでは自宅で簡単にできるストレッチ法を紹介します。
①大腿四頭筋のストレッチ
伸ばしたい方の足の甲を反対側の手で持ち、そのままお尻に近づけて伸ばします。
②ハムストリングスと下腿三頭筋と前脛骨筋の同時ストレッチ
椅子やベッドに足のかかとをのせて、のせている足のつま先を上げ、胸を膝に近づけ、足首を内側にねじります。
③前脛骨筋のストレッチ
椅子に座って、伸ばす方の足の外くるぶしを反対側の太ももにのせ、片手で足首、もう片手で足の甲を伸ばします。
ストレッチは無理をしない状態で行いましょう。
つらい膝の痛みは再生医療の選択肢も
変形性膝関節症の治療は薬物療法、運動療法、手術がありますが、通常の治療ではなかなか治らない、メスを入れずに治療を受けたい方は「再生医療」の選択肢もあります。
再生医療はご自身の血液や脂肪を用いる治療のため、治療後の拒絶反応や副作用は少ないとされています。身体の負担も比較的少なく、入院・手術の必要はありません。
変形性膝関節症に対する再生医療の治療法は「PRP療法」「幹細胞療法」の2種類です。
PRP療法
PRP療法は患者自身の血液を使い、自己血を遠心した後の血小板を多く含む血漿層を患部に注射して再生させる治療法です。PRP療法は2通りあり、白血球をほとんど含まない従来型のACP療法と関節に特化した次世代PRPのAPS療法があります。
ACP療法は膝関節の治療のみならず、美容医療などさまざまな治療や研究で用いられています。白血球をほとんど含まないため、患部の腫れや痛みが少ない点が挙げられます。
一方のAPS療法は専用のAPSキットを用いてPRPから抗炎症成分などを取り出したもので、変形性膝関節症の新しい治療として注目されています。
幹細胞療法
幹細胞療法はご自身の脂肪や骨髄を用いて培養し、患部に注射して再生させる方法で、間葉系幹細胞療法、MSC療法ともいいます。幹細胞療法もPRP療法と同様にさまざまな治療・研究に用いられています。
再生医療のメリット・デメリット
PRP療法のメリットは大きな設備が不要で、比較的に容易に精製が可能です。自分のPRPを使用する限り感染のリスクは低いとされています。
デメリットは注入部に感染や神経損傷などの病的な変化や周辺の筋肉や骨の痛みが生じることがあり、稀にアレルギー反応や血栓症を発症するリスクがあります。また、ヘビースモーカーや服薬量の多い方、血小板異常症などの持病のある方などは控えなければなりません。
幹細胞療法のメリットは幹細胞を培養して保管すればいつでも治療に応用できます。また、多くの変性性疾患や炎症性疾患に対して用いられているなどがあります。
デメリットは幹細胞の質や寿命に個人差があることや幹細胞を培養する環境の問題などが挙げられます。
膝の再生医療の費用
膝の再生医療は他の再生医療と同様、全額自己負担となります。安全性が確立されて効果は実証されているものの、保険診療として認められるほどの臨床データがそろっていないことが理由です。
膝の再生医療の平均費用は、PRP療法が30,000~300,000円前後、幹細胞療法が1,000,000円前後かかります。ただし、医療機関によって費用が異なりますので、複数の医療機関を調べてみて、治療方針や費用などを検討し、納得がいく施設で治療を受けることをおすすめします。
再生医療は指定された医療機関で受診を
再生医療はすべての医療機関が行っているわけではありません。再生医療は厚生労働省が認可した指定医療機関でなければ治療の提供はできません。再生医療は第一種~第三種の医療機関があり、第一種は3件、第二種は724件、第三種は3342件の医療機関が治療を実施しています。
厚生労働省のホームページで再生医療を実施している医療機関が掲載されているため、まずは再生医療を実施している指定医療機関の有無をチェックしてから、治療を検討しましょう。
(参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186471.html)
まとめ
変形性膝関節症は膝の関節のクッションである軟骨の質が低下し、すり減って、歩行や動作時に膝の痛みが現れる病気です。40代以上の膝の痛みの多くが変形性膝関節症で、女性に多く見られます。
初期症状では膝の痛みがあっても、休むと自然と治まりますが、末期症状になってくると歩行や動作が困難になり、日常生活に支障が出てきます。治療は薬物療法、運動療法、手術があり、進行度の度合いによって治療が選択されます。しかし、肥満の改善やストレッチなど、基本的生活習慣の改善が治癒を左右されます。また、通常の治療では治らなかった、メスを入れずに治療を受けたい方は再生医療の選択肢もあります。
本記事を読んで、少しでも多くの方が膝の痛みの改善にお役に立てれば幸いです。