エクソソームとは?簡単にわかりやすく解説!治療の効果やメリット、副作用や幹細胞との違いについて
院長 黒木 良和
九州大学大学院修了 医学博士
川崎医療福祉大学客員教授
元神奈川県立こども医療センター所長
元聖マリアンナ医科大学客員教授
目次
私たち1つ1つの細胞の中には、核、ミトコンドリア、ゴルジ体など生命維持のために必要なものが集まり、基本的な構成要素を形成しています。「体の構造をつくる」「食物から栄養素を得る」「エネルギーに変換する」といったさまざまな役割を担っている細胞の中でも、最近特に話題になっているがエクソソームです。ここでは、エクソソームとはどのようなものなのか、そして私たちの病気や健康にどのように関わっているのかを説明いたします。
エクソソームとはどのようなもの?
実際にエクソソームと言われても大部分の方はあまりなじみのない小器官ではないでしょうかではないでしょうか。ここでは、エクソソームとはどこに存在し、どのような働きをしているのか紹介します。
エクソソームとは?
エクソソームとは、動物細胞や植物細胞などの核を有する細胞の中に含まれる多胞体から分泌される直径50-150 nm(ナノメートル)の<strong>顆粒状の小器官です。</strong>
その構造は表面は細胞膜で覆われており、内部には核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)やタンパク質などの物質を含んでいます。
どこに存在しているの?
エクソソームは定期的に細胞外に排出されることから、細胞外小胞(Extracellular vesicle)の一種とされ、細胞の外に通常存在する小器官です。
動物のような高度な組織をもつ生物においては、<strong>細胞間に存在するだけでなく、体液(血液、髄液、尿、母乳)などにも存在し体中を循環しています。</strong>そのため、私たちの体の中には、100兆個以上のエクソソームが体液中を流れていると考えられています。
エクソソームの機能やその役目
それでは、エクソソームとはどのような役割があるために存在しているのか見ていきましょう。
エクソソームの役割
私たちの細胞とは「生きるために必要な機能を維持させる」ことを目的として存在しています。エクソソームはその中で細胞間同士のメッセンジャーの役目を担っています。
特にエクソソームに含まれているマイクロRNAという遺伝物質は、元々細胞内のDNAの中だけにしか存在しないとされてきました。けれども、実際にはエクソソームの中にも存在し、細胞間での情報交換に使われています。
エクソソームの誕生とその歴史
エクソソームは、Philip D. StahlらとRose M. Johnstonらによって1983年に哺乳類の成熟中の網赤血球(未成熟の赤血球)中に発見され、1987年にJohnstoneらによって「エクソソーム」(exosome)と名付けられた
エクソソームの中に含まれているマイクロRNAは細胞内にだけ存在すると考えられていたのですが、2007年にはスウェーデンのヤン・ロトバル博士により細胞外にも存在し、体中の細胞のマイクロRNAと情報の交換を行っていることが分かりました。
その後、2010年と2015年には落谷孝広さんらの研究グループにより、マイクロRNAを含むエクソソームが情報伝達物質として働いていることが報告されています。また、乳がん細胞から分泌されるエクソソームが脳血液関門を超えてマイクロRNAを運び、脳転移にかかわる可能性があることも報告されています。
そのほか、2017年には、国立がん研究センター中央病院などで、13種類のがんに関連するマイクロRNAを血液で調べる臨床研究が始まり、エクソソームの働きを解明する研究が世界中で行われるようになりました。
※参照URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17486113/
※参照URL:https://www.kateigaho.com/migaku/24223/4/
エクソソームはなぜ重要なの?
エクソソームはどうして私たちにとって重要なのか、ここでは身近な例えを用いて紹介します。
エクソソーム中のマイクロRNAが重要
エクソソームというのは、例えていうならば細胞の中の宅配屋さんであり、マイクロRNAというものはその荷物です。エクソソーム中に含まれるマイクロRNAには、出荷された細胞のさまざまな情報が含まれていますので、必要な場所に必要な積荷を配達することにより、私たちの体の中の機能は正常に動きます。
しかし、もし荷物の中身が受け取り先の細胞に悪い影響を与える「がん細胞(爆弾のようなもの)」などの荷物ならばどうなるのでしょうか。それを受け取った先の細胞はがんの影響を受けてしまうことになり、大変なことになってしまいます。つまりエクソソームにおいては、積荷であるマイクロRNAの方が重要ということになります。
マイクロRNAを上手く使った治療や研究
リソソームはマイクロRNAが重要なファクターになるということは分かりましたので、現在ではそれを利用した治療が始められています。
例えば、肌細胞のマイクロRNAを利用し肌を若返らせる治療や、正常な細胞のマイクロRNAを使用し、弱っている頭皮の毛包細胞を修復する治療などが始められています。
また、正常の細胞、体細胞、幹細胞、がん細胞といったさまざまな細胞からエクソソームを、私たちの体ではなく培養上で検査できる研究も進められています。
※参照URL:https://dexon.co.jp/campaign/sample-campaign5/
エクソソームの美容上のメリット
エクソソームの研究が盛んになった背景には、私たちの健康のカギを握る重要な役目を担っているのがエクソソーム内のマイクロRNAだということが判明したためです。ここでは美容に関してどのようなメリットがあるのか、エクソソームの仕組みを交えて説明していきます。
- メリット1.肌のターンオーバーやエラスチンの産生
- メリット2. 薄毛治療
- メリット3.血管再生や免疫調整
メリット1.肌のターンオーバーやエラスチンの産生
エクソソームは細胞間を移動し、その情報を伝達します。そのため、エクソソームを肌に注入することにより、エクソソームが細胞間を移動して細胞の活性化に必要な物質を届け、美肌(抗炎症、皮膚バリア再生、創傷治癒など)、しわ・しみの改善(細胞増殖、皮膚再生)といった作用をもたらします。
治療には、「ダーマペン」とよばれる肌に刺激を与える細い針を束ねたデバイスにより細かく肌に刺激を与え、エクソソームを注入し肌を治療していきます。
※参照URL:https://www.eyeclinic-ooimachi.com/ipl/dermapen/
メリット2:薄毛治療
薄毛治療も肌のターンオーバーやエラスチン産生と仕組みは同じです。エクソソームの細胞間を移動する機能を利用し、毛の発毛を促す毛包細胞を活性化させていきます。また、傷ついた毛包や弱った頭皮を修復して、頭皮環境を整えていきます。
クリニックにより治療の仕方は違いますが、点滴、ダーマペン、注射を使用しエクソソームを注入していきます。
※参照URL:https://mbcl.co.jp/article/108/
メリット3:血管再生や免疫調整
加齢減少のため毛細血管が減少すれば、その分酸素や栄養分が行き渡らなくなってしまいます。さらに、その状態が続けば、免疫力も弱くなり血管も徐々に弱くなっていってしまいます。
エクソソームはそのような抗炎症や免疫調整作用にも効果があります。正常なエクソソームを注入することにより、抗炎症作用や免疫調整作用により、アトピー性皮膚炎などの炎症性疾患に効果が期待でき、血管再生や新生作用により、肌を健やかな状態へ導くことも可能になります。
※参照URL:https://mbcl.co.jp/article/108/
エクソソームと幹細胞の違い
最近では「エクソソーム治療=幹細胞培養上清液」の治療を行う病院も多くなってきました。ここでは、勘違いしやすいエクソソーム治療とヒト幹細胞との違いを明らかにしていきたいと思います。
幹細胞培養上清液とは
幹細培養上清液とは、私たちの体のさまざまな部位から採取した幹細胞の培養上清液です。主に歯髄由来、臍帯(さいたい)由来、脂肪由来、骨髄由来などがあり、治療したい部分により使い分けています。
また、アレルギー反応など副作用の点から、幹細胞そのものを投与するのではなく、幹細胞を培養した後に分離させた「幹細胞培養上清液」を活用します。その上清液の中には分泌されるさまざまなサイトカインや成長因子などが高濃度で含まれています。
エクソソームとは
エクソソームとは、細胞の中のある1つの小器官のことであり「幹細胞培養上清液」の中に含まれる物質の1つです。しかし、細胞情報伝達の重要な役割を果たすため治療名では「エクソソーム治療=幹細胞培養上清液」となっています。
「幹細胞培養上清液」の中には、治療に大切なエクソソームだけでなく、生理活性物質・サイトカインが豊富に含まれています。
さまざまな製品に応用可能な幹細胞培養上清液
幹細胞培養上清液は幹細胞とその効果は変わりませんが、移植手術をする必要がなく副作用もないというメリットがあります。そのため、現在では幹細胞培養上清液を混ぜた化粧品などが製薬会社から作り出されています。
製薬会社は現在でもその毒性や安全性の研究を続けています。ですので、それらの研究結果を参考にして、新薬の開発や私たちの体に無害な薬剤や化学薬品を作り出すことも近い将来期待できるのではないでしょうか。
エクソソームの今後の課題
エクソソームは最近その役割と重要性が再確認された細胞ですので、いくつかの課題が残っています。しかし、急速にそれらの課題を解決する研究も進められています。
エクソソームとがんの関係
どのような治療でも同じですが、治療を行うためには安全性を充分に確認しなくてはいけません。特にエクソソームのような比較的新しくその働きが見直されたものについては、何度も検証を重ねることが大切です。
エクソソームは情報を伝達する「運び屋」ですので、色々な病気に関わっていることが指摘されています。その中でも代表的なものが「がん化」です。
がん細胞から放出されるエクソソームはがん細胞の生存、悪性化、転移などの情報を伝達先の細胞に伝えてしまいます。そのため、正常な細胞であってもエクソソームが働きかけるとその器官ががん化することや、正常なエクソソームを癌患者さまに注入した場合、がん細胞が増加することが懸念されています。
安全性の確認
エクソソーム治療は最先端の治療ですので、まだまだその安全性は確立されていません。また、培養段階で健康な細胞を培養できているのかなども懸念される材料になっています。
けれども、各国が毒性検査やがん化への抑制遺伝子の調整、マイクロRNAについての研究など、私たちが安心して使用できるような試験や臨床実験も重ねられています。そのため、誰もが安心して治療を受けることができる未来が早く来るのではないかと考えています。
エクソソームの今後の展開
エクソソームに安全性とコストの安定が確立できれば、さまざまな分野での活躍が期待できそうです。ここでは、上記で記述しきれなかった新しい活用方法をお伝えします。
コロナ(COVID19)ワクチン
最近では、コロナワクチンでリソソームを知った方も多いのではないでしょうか。コロナワクチンの仕組みは、細胞の中に入ったワクチンのmRNAからスパイクタンパク質(タグやポストイットのようなもの)が作られます。
スパイクタンパク質ができると、細胞膜の一部がスパイクタンパク質を細胞の外側に突出させます。その後、突出した細胞膜が切り離され、スパイクタンパク質を包んだエクソソームが細胞外に出ていき、エクソソームに包まれたスパイクタンパク質は血液中を流れて、その他の臓器に取り込まれます。
このスパイクタンパク質を基に抗体が作られ、コロナに罹患しても重症化にならないようになります。
リキッドバイオプシー
細胞から分泌されるエクソソームは、分泌元の特徴を持ち体液中に存在しています。そのため、そのエクソソームを診断マーカーに応用できないかという試みがされています。この診断は「リキッドバイオプシー(Liquid Biopsy)」と呼ばれています。
既に国内では国立がん研究センターが血中のエクソソームから大腸がんの早期診断法を開発したとの報告がなされています。海外ではExosome Diagnostics社がエクソソームを利用した体液診断法の研究を進めています。
また、日本でも前立腺特異的エクソソームを利用することにより、前立腺がんマーカーの検出とその臨床研究が行われており、実現する日も近いでしょう。
まとめ
エクソソームは、細胞の小器官でありPhilip D. StahlらとRose M. Johnstonらによって1983年に哺乳類の成熟中の網赤血球(未成熟の赤血球)中に発見され、1987年にJohnstoneらによって「エクソソーム」(exosome)と名付けられました。
当初はその役割が分からず目立たない器官でしたが、2007年にスウェーデンのヤン・ロトバル博士によりエクソソームが細胞外にも存在し、体中に存在しているマイクロRNAと情報の交換を行っていることを発表しました。
研究を続ける中で、マイクロRNAを含むエクソソームが情報伝達物質として働くことが判明し、がんやワクチン、肌のターンオーバーなどさまざまな治療に関する研究対象になってきています。
特に、アンチエイジングや発毛分野ではダーマペンや点滴などさまざまな治療方法が開発されるようになりました。
未だに癌化や安全性の確率、コストの負担などエクソソームを利用した治療には課題が多い現状ですが、1つずつその課題をクリアする研究も続けられていますので、近い将来さまざまな分野でメインの治療になるのではないかと期待されています。